僕は何気無くネットで検索していた。 するとあるブログを目にした。 そのブログを書いているのは地方のサラリーマンで過去の未解決事件を集めていた。 その記事に僕の街のことが載っていた。 事件の概要はこうだ。
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霧谷町少女殺害事件── それがタイトルだ。もう20年も前の事件で、僕はまだ生まれていない。この辺りは市町村合併でみどり野市になっていて、今は霧谷町という地名も無い。 その日、妙斉川の河原でビニール袋に包まれた少女の全裸死体が発見された。両手と両足を縛られた姿で、複数の男性に陵辱された上で絞殺されていた。被害者は当時の町会議員の長女R子。霧谷高校の生徒で、成績は優秀。生徒会長も務めていたという。
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霧谷高校のR子の同級生のA、霧谷町の暴走族でパシリをしていたB、Aの幼馴染の無職のC。三人の指紋がR子を縛っていた紐から検出されたが、証拠不十分のため逮捕されなかったようだ。 R子を誘拐したが要求通らず誘拐犯が雇ったチンピラに殺させたのでは? 当時の町会議員の実子虐待を議員が隠蔽するために事件を捏造したのでは? 記事には当時の週刊誌の記事の引用し、警察が事件を隠蔽し迷宮入りにしたとある。
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そうだった!母は霧谷の卒業生のはずだ。 「もちろん知っているわ」 夕食の支度をしながら母は答えた。 「玲子さんとは同学年だったのよ……」 仮名のR子さんが一気に現実味を帯びる。 「どんな人だったの?」 「綺麗な人だったわよ。でもね、玲子さんのことはお父さんの方が詳しいと思うわ」 「オヤジが?」 「私たちが一年の時の生徒会長がお父さんだったの。玲子さん一年の時から生徒会のお手伝いしてたから」
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「玲子か……まあ、いい奴だったんだけどな」 父に尋ねると、どこか歯がゆい返答だった。 「生徒会の雑務が終わると、俺たちは生徒会室でのんびりしてたんだが、玲子は毎回矢継ぎ早に家に帰ってた。町会議員の娘さんだったから、親のしつけも厳しかったんだろうよ。でも俺たちと親しくしようとはしなかったな。友達はいたみたいだから、ぼっちって訳じゃなさそうだったが」 その友達っていうのが、あの三人のことなのだろうか。
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僕は気になって仕方がなかったが、 「あー、そうなんだ」 と素っ気ない返事をした。 一ヶ月後、僕はある飲み屋のカウンターにいた。 午後8時、もうすぐ例の3人組がやってくる時間だ。 この日のために僕は綿密な計画を立てた。彼らがこの飲み屋の常連であること、同じ席に座ること、彼らの行動は全てわかっていた。 あとは僕が席に予め仕込んでおいた週刊誌に目を通してくれれば… 僕は彼らの反応が楽しみだった。
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ガラガラ…。 玄関の扉の音と共に、店に3人組が入ってきた。 僕は食事をするふりをしながら、彼らの様子を伺っていた。 すると、一人が週刊誌に目を向けた。 「あ、これ…」 「あ〜、例の事件か」 「あの事件は可哀想だったよな〜…」 僕は驚いた。 まさか3人から、相手を偲ぶ台詞が出て来るとは思わなかったからだ。 「そういや知ってるか?あん時、先代の生徒会長が関わってたって噂」 「お〜、知ってる!」
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先代? R子さんは二年生の時生徒会長を務めたときく。それって僕のオヤジ…!? だが目を見回していたABCは、ぷっと吹き出した。 「へぇ、じゃあカモフラージュは一部成功してたってのか。あいつに罪を着せる計画は」 「あぁ、俺らの指紋が証拠から出てきたって聞いた時はビビったけどな」 「掃除で触ったって言い逃れ出来て良かった」 何てことだ。犯人はこいつらで、その上父さんに罪をかぶせようとしていたのだ!
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三人が帰った後、僕は仕掛けておいたICレコーダーを取り出して待ち合わせ場所に向かった。 「おーおー、ばっちり録れてらあ。こりゃ特ダネになるぞ」 ICレコーダーの内容を聞いた同僚はにっこり笑った。 「でもいいのか?お前のお手柄だろ?」 「ああ、僕の分野外だし」 「じゃあ頂くぜ。ありがとな」 そしてスポーツ記者である僕は同じ会社で働く事件記者の同僚と別れた。 そして数ヶ月後、この事件は解決した。
- 完 -