だぁーーー!!暑い暑い!! こんな暑さじゃ課題やる気おきねーっつの! でも、この課題やらなきゃ留年確定だしなぁ。 あーーーもうーー!計算問題とか無理だって!! あ、そうだそうだ、そろそろ マリーにエサあげなきゃな... 本当に猫は良いよな、課題ねぇし ったく、猫の手も借りたいとはこのことだぜ... 「マリー、お前も課題手伝ってくれよー」 やべぇ...俺、何言ってんだろ
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ん、どうしたマリー? 「あっ、俺の机の上に乗るな!ノート踏んだら足跡付くだろ!」 くそっ、なかなか強情だな…… シャーペンなんて持って何をす…… 「ぎゃー!!書くな書くな!!」 俺の!ノートに!!何をする!!! 俺が留年したらどうするんだ! ……いや。 こいつ、問題解いてる!? うわあ、ドヤ顔でこっち見るな!
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大体お前みたいな拾われて来た雑種猫に、あの底意地の悪い沼山教授が作った数学の問題が解けるわけ・・・・ 解ける・・・・ 解けてる。 事の異常さを忘れて、俺はマリーを拾ったことを幸運に思い始めていた。 あれは去年の事。 いつも通り沼山のジジイの講義に精神を削られ、入学してすぐで友達もまだ出来ず、一人暮らしのアパートに帰るのが辛かった。 それで道端にいたマリーを、つい連れ帰ってしまったんだっけ。
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連れてきた時は、ちょっと身体が弱ってたんだよなあ。 で、元気になってからは、噛むわ引っ掻くわ、その辺でおしっこするわの大騒動だったし。 まあ、暴れん坊の割りに勘のいいやつだとは思ってたんだ。 けどまさか、こんなことまでできるとはな…。 とにかく、必死で世話した甲斐があったってもんだ。 ん? 何だ、その、何か言いたげな目は。 ひょっとして、まだ何かやってくれんのか?
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そう思った俺だが、マリーがパソコンをいじって高級キャットフードのページを表示させたのを見てがっくりした。 課題やった礼の催促か… まあ、助かったし。 俺はマリーがやった課題を書き直し(筆跡でバレるかもしれないからな)、ドヤ顔で沼山教授に提出した。 悔しがる沼山教授の顔を堪能し、晴れ晴れとした気持ちで廊下を渡っていた時、俺は聞いてしまった。 「一年も経つんだぞ!まだ見つからんのか、あの猫は!」
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「はあ!此方も懸命に探しているのですが、何しろ見た目はただの雑種ですから、苦労しているんです!」 「だから血統書つきのにしろと散々言ったんだ!いいか、何としてでもあの猫を取り返すんだ!」 恰幅のいいおっさんとひょろ長のおっさんが凄い剣幕で言い争っている。 あ、やべ。目が合った。 太った方のおじさんがずんずん歩み寄る。 「君、数式の解ける白猫を知らないかね?迷子になった私の愛猫なんだ」
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やべぇ…これもしかしなくてもマリーのことだ。 咄嗟に俺は嘘をついた。 「いやぁ…ゼンゼン知らないっす」 「見かけたら教えてくれ。あれは現代の技術を駆使して造られた超頭脳猫なのでね」 言うだけ言うと、おっさんは忙しそうに去っていった。 やべぇ、意味わかんねぇ。 正直言って、今までマリーをただの暴れ猫だと思っていた。 …が、手放せと言われると俄然愛情が湧いてくる。 俺が、マリーを守らなくては。
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家に帰った俺は、途中で買ってきた高級キャットフードを開け、マリーの前に置いてやった。 「…まあ、何となくそんなオチの様な気がしたんだよな。こんな頭のいい猫、普通いねぇし」 マリーは出されたキャットフードを黙々と食べている。 「なあ、お前さえ良ければずっとここにいてもいいんだぞ。まあ、こんな安アパートだから、そんなに豪華な暮らしは出来ねぇし、たまに俺もお世話になるかもしれねぇけど」
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ナーン。 綺麗に食べ終えたマリーはペロリと口をひと舐めし、そう鳴いた。 しゃがんでいた俺の足に前足を乗っけて、さも満足そうな顔で喉をゴロゴロ鳴らす。 その喉を撫でたときに指に伝わる振動が好きだ。気持ちよさそうに目を瞑るマリーを眺めるのはもっと好きだ。 はは、と乾いた笑いが殺風景な空間に紛れる。 暑いな、という呟きは外の蝉に掻き消される。 ナーン。 それでもその声は、よく聞こえた。
- 完 -