いつか、この道は思い出になってしまうのか。ふと、そう思った。 毎日、友達に囲まれている。目の前には、6年通ってきた道がある。 あと半年。未来への期待よりも過去との別れへの不安が大きくなる。 ぎゅっとランドセルのベルトを握りしめた。そして俯いて石ころを蹴った僕の視界に、緑がちらついた。 つられて顔をあげると、親友の太陽がカマキリを手にして、にやにやしていた。 「俺がとったんだぜ」
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首根っこを掴まれたカマキリは、「今すぐ解放しろ」とでも言うかのように鎌を振り回していた。 「やるじゃん」と僕が言うと、「へへ」と太陽は笑う。 ふと、初めて僕と太陽が出会った時──入学式からの帰り道を思い出した。僕が道端で捕まえたバッタで、太陽を驚かせたあの時を…。 「太陽くんだよね?」 「う、うん」 突然声を掛けられた太陽は反射的に頷いた。僕も太陽も、大きなランドセルを背負っていた。
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同じ帰り道だとわかってから、僕と太陽は教室でも一緒にいることが多くなった。休み時間はもちろん、チームを組む体育の授業も、遠足の時だって。僕らは少しずつ、寄り道をして帰るようになった。オナモミをくっつけあったり、花壇に生えた花の蜜を吸ったり、細い路地に入り込んでみたりした。 バッタはあのとき、どうなったのだっけ。 カマキリをじっと見る太陽はあのころと変わっていない。それが少しだけ頭にモヤをかけた。
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「こわくないの?」 「ちっとも! 平気だよ。持ってみな」 僕はショウリョウバッタの背中を太陽に向けてやった。ちょっとだけ、驚かせてやりたくなって「あんまり変にすると、茶色いの口から出してくるよ」なんて言ったっけ。でも、太陽は心を決めると二度と臆することはなくなった。立場が逆転していくのを、毎日感じていたかも知れない。当時はよくわからなかったにしても。 「何でさ、受験なんかすんの? やめちゃえば」
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