奥野の恋と最期の問い
朝、登校すると昇降口には奥野が立っていた。
「やあ」
「…」
奥野の爽やかな挨拶を僕は無視した。
「なんだ?ご機嫌斜めなのか?」
決してそういうわけではないのだが、僕は無視をし続けた。
「なあ、返事してくれよ。遙のことで話したいことがあるんだ」
いくら話しかけられようと、多くの人が行き交う昇降口で奥野と会話をするわけにはいかない。
なぜなら、奥野は最近再び姿を現した幽霊であるからだ。
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そもそも何故僕に幽霊が見えるのかという話だが。
正直なところ僕にもわからない。生まれた時からそうだったのだ。
「なあってばぁ」
しつこい奥野を無視し続けて僕は屋上へと向かう。
重いドアを開け、誰もいない屋上に足を踏み入れる。
「…ふぅ」
僕は溜息をひとつつく。
「なになに?疲れてんの?」
奥野が僕の顔を覗き込んでくる。
「お前のせいだってのっ‼︎」
僕の一撃は空をかいた。
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勢いで、フェンスから身を乗り出しそうになる。
「危ないなあ。落ちるぞ」
「だから、お前のせいだろうが! 目の前、ふわふわするなよ」
「落ちたら、俺の仲間だな」
奥野はにっこりした。
こいつ、縁起でもないことを…。
僕はフェンスを背に座り込んだ。
「つきまとうなよ」
「仕方ないだろ。お前しか、俺のこと見えるやついないんだから。遥のことでさ、頼みたいんだ」
遥というのは、僕のクラスメイトだ。
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「嫌だ」
僕の即答に奥田はあからさまに悲しそうな顔をした。
「そこをなんとか!!」
「嫌だよ!!」
遥とはクラスの中で一番可愛らしいと評判の女子だ。
男子の中では密かにマドンナ遥と呼ばれている。
僕が初めて奥田を発見した時、コイツはなんと、マドンナのスカートを覗こうとしていた。
僕はそのとき思わず叫んでしまった。
以降僕はクラスの中で密かに変態吉野と呼ばれているらしい。
泣きたい。
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「やっぱ無理かなぁ」
奥野は深く肩を落とした。
「当たり前だ」
「スカートの中を見たい、からは大分難易度下げたんだけどな」
奥野と出会って数日、たとえ幽霊でも女子のスカートの中を覗いてはいけないということを何とか納得させたものの、今度は「遥に自分を知ってほしい」と言い出したのだ。
「別の方向で上がってるよ…」
愚痴っても埒が明かない。
幽霊が見えない人にどうやって幽霊を認識させるか。難しい宿題だ。
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奥野は別のクラスだった。部活の帰り道に轢き逃げされた。轢き逃げ犯は数日後、心不全で亡くなっていたらしい。なんでも薬の過剰摂取だとか。
校内では、部活のレギュラー入りを果たしたばかりの奥野が呪い殺したという噂がある。
しかし、幽霊の奥野を見る限り呪い殺すような奴には見えない。別のクラスとは言え、奥野は死んだ今でも有名人だ。幽霊を見た噂は聞かないから見えるのは俺だけ。
奥野が遥に執着する理由は、
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他でもなく、あの塾のノートのことだ。
奥野は高校に入学してから遥と同じ塾に通い、しかも同じ数学講座をとっていた。もともと奥野は数学だけは得意で、その塾でも成績は上位だった。
ある日のこと、塾の授業が終わった後も、奥野の隣にいた遥はノートを開いたまま帰ろうとしない。それを見た奥野はそっと教えた。
「グラフで考えるとすぐ分かるよ。」
それから遥は、何かつまずくとノートを見せて奥野に聞くようになった。
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そして、事故の前日にまた遥がノートを開きながら聞いてきた。奥野は展開図を描きながら...
その下にそっと書いた。それを読んだ遥は顔を赤らめノートを閉じ小走りで教室を出て行った。奥野はその後姿に『明日、そのノートに返事を...』と、
事故当日、部活が長引き急いで塾に向かう途中だったらしい。
「だ・か・ら、この事は俺と遥しか知らない事なんだよね」
何か腹たつ!
「で、何て書いたんだよ」
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「付き合ってくれないか? って」
拍子抜けだ。
「てっきりパンツ見せてくれとか書いたのかと」
「馬鹿だな。付き合えばパンツくらい見放題だろ」
「馬鹿はお前だ」
仕方なく僕はマドンナ遥のノートを盗み見た。
「返事あった?」
「ああ、あった」
「そうか。良かったよ」
奥野が透けてゆく。
「待てよ。返事聞かないのか?」
「どっちにしても悲しいだけだからね」
奥野は微笑み、爽やかにそう言い残した。
- 完 -
作品情報
奥野の恋と最期の問い
#13623
- リレー期間
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1年7ヶ月