お気に入りのスニーカーに足を入れて、外に飛び出したら、楽しい一日の始まり。 友達とつくった秘密基地まで、ぼくはぐんぐん歩く。今日はお日様もぽかぽかだから、ぼくの体もぽかぽか。道ばたで猫が伸びをする。 林の中の小さな茂み。そこがぼく達の秘密基地。小さいけど、誰にも見つからない。イタズラの作戦だってここで立てる。 茂みの中で草をいじってたら、ガサッと音がして、ひょこっと友達が顔を出した。
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「そこに罠か」 ぼく達は、秘密基地の周りにいくつかの罠を作る。その場所を考えるのはぼくの係。 「ここは道路から少し離れてるけど、ぼく達がよく通るから」 「オレがはまったらどうするんだよ」 秘密基地に集まるぼく達の中では新入りになる友達。学校は違うけど、よく行くコンビニで友達になった。 「目印あるからだいじょうぶ、ほら」 草むらの罠の近くに空き缶を置いた。 この罠にかかる人はいないと思っていたんま。
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「わぁ!」 子どもの声がした。声の方向からして、最近主力を注いでいた深めの落とし穴がある方だ。 「今の声、女の子っぽくなかったか?」 友達が焦る。確かに、小学生の女の子くらいだと自力で這い上るのは無理だろう。ぼくたちはロープを取り出して、急いで大穴に向かった。 「「ハアハア……」」 独り身で穴をよじ登る時と違い、救出には思った以上に力を使った。女の子──チーちゃんと出会ったのはこの時だった。
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チーちゃんは変わった女の子だった。 「どうしてこんなところの罠にはまったの?」 「一人で探検してて」 「一人で探検?」 「友達いないのかよ」 「いない」 その日から僕らは友達になった。 チーちゃんは決まって月曜の放課後現れた。その日以外はみんな習い事で埋まっているんだと聞いた。 「落とし穴に落ちた時、死ぬかと思った」 「死ぬわけないだろ、あんな落とし穴で」 「だって怖かったんだもん」
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「英会話スクールでアリスやったところでね。穴に落ちるでしょ」 これを聞いて太陽くんが目を輝かせた。英会話に興味があったらしい。ぼくとチーちゃんの共通点も発見した。同じ先生に習字を習っていたのだ。チーちゃんは火曜、ぼくは木曜。 「太陽くんと矢田くんは習い事してないの?」 「低学年の頃は運動教室に通ってたけど、今は部活あるからさ」 「オレは塾とドラム」 僕たちは持ち回りで〝先生〟をやることになった。
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ぼくとちーちゃんは習字、ちーちゃんは英会話も兼ねて、太陽くんはスポーツを、矢田くんはドラム。自分の得意なことを人に教えるのは特別な感覚がした。ちーちゃんは習い事をよくしているから、教わるのも教えるのも一番うまかった。習い事会は新しいことができて楽しかった。 ある日、先生ごっこに飽きてくると、ぼくらはちーちゃんにイタズラのやり方を教えることになった。だって、元々はそのための秘密基地だったのだから。
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