いつの時代も、ミステリー作家の考えることは同じだ。 頭のキレる探偵役が偶然、謎の事件に出くわし、容疑者たちの中から真犯人を見付け出す。その時のセリフはこうだ。 「真犯人は、この中にいる!!!」 正直、もうそういうのはいい。 確かに燃える展開ではあるが、n番煎じにも程があるだろう。 だから僕は言い放つ。この状況を打破するには、もはやコレしか道はない。 「真犯人は、この僕です!!!!」
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「「「……え?」」」 ここにいる皆の目が点になった。 フッフッフッ、こんな事を思いついてしまう僕の才能が恐ろしい。 僕は続けた。 「そう!何を隠そう、この僕が犯人なのです‼」 「「「……何が?」」」 そう!これぞ衝撃の展開! 皆が僕に注目している! これで一気に解決に向かって行く事間違いない! 「さあ皆さん!この僕を逮捕して下さい‼」 (((何なんだこの意味不明な野郎は…(汗))))
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「さもないと、僕の犯行はこの後2時間と15分後、深夜0時ジャストに決行されます!」 「「「予告犯行⁈…ってかあんた誰⁈」」」 皆んな意表を突かれてんぞ! 今こそ名乗る絶好のシーン! この名探偵の登場を最大のインパクトで演出なのだ。 「ふふふ、皆さん。驚きの様ですね。僕の名は名探て『大変です!旦那様ぐあっ!』 え?ちょっ!何?最高のタイミングだったのに!僕の自己紹介は執事の登場にかき消された。
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「ああ名探偵!いいところにいらっしゃいました!旦那様が、旦那様が!」 有無を言わせず執事は僕の腕を掴み、僕を皆から遠ざけた。いやちょっと待って!このままじゃ、僕はまだ皆にとって名無しの「名探偵」なんですけど!? 「し、執事さん!ちょっと・・・」 「旦那様が、旦那様が血を流してお倒れに!」 おい、これってもしかして、またもや「お決まりのパターン」じゃないのか!? 「この部屋です!」
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そこには案の定、血を流して倒れている男の姿があった。 そして僕は名探偵であるが故に、死体を見て一目で分かってしまった。真犯人が、この執事であるということに! なんてことだ!!! 第一発見者が真犯人だなんて、あまりにもセオリー通りすぎる!王道がなによりも嫌いなこの僕がこんな展開を許すわけにはいかない! だから僕は、思わず嘘をついてしまった。 「こいつを殺したの僕です!!!!!」
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「いやいや、そんな筈ないと思いますがね」 突如割って入ってきたのは、ボサボサ頭にトレンチコートの小汚いオッさんだ。 「誰だ、あんた」 「刑事ですよ。この様子だと犯行から10分も経ってない。しかし貴方はその頃、違う部屋にいた」 「なぜ分かる」 「私も偶然、貴方と同じ部屋にいたんでね。貴方の妙な犯行予告にウチのカミさんもポカーンとしてましたよ」 まずい。このままでは主人公をこいつにもっていかれる。
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「場を和ます為の冗談に決まっているじゃないですか」 笑ってごまかしたが、執事は語気を荒くして怒鳴った。 「探偵さん、人一人が自殺しているのです、それはあんまりです、少し不謹慎すぎるのではないですか! ああ、旦那様、どうして…」 執事いぃぃぃ! この事件が殺人とも自殺とも判別していないこのタイミングで、なぜ、自殺だとお前は断言してしまっているんだああああ! 証拠はまだだけど、犯人決定じゃないかっ!
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「ねぇ、ちょっとあなた。」 その時黙っていたおばさんがいきなり 声をあげた。 「な、なんですかっ⁉︎」執事は ずり落ちた眼鏡を上げながら 素っ頓狂な声を出した。 「あなた、さっきまで何処にいたの? ここにはいなかったようだけど。」 おいおいおいちょっと待て。おばさんっ! 「いや、それは、あ、あのぉ‥‥」 「みなさん、おかしいと思いませんか? 普通この死体を見たら 他殺だと思いますよね?」
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(ふっ…みんなよくやってくれてるじゃないか)などと考えているのは、そう執事の『ご主人様』。なにを隠そうこれは『ご主人様』の演出なのだ。暇を持て余した彼が思いついた偽殺人事件。 (執事はごまかせるかな…)そう執事だけは事件の真相を知っている。彼女に刑事と名探偵をパーティに招待させた。もちろん彼女は嫌がっていたが…。 (さぁみんな盛り上げてくれよ!)死体が僅かに微笑んでいることに気付く者はいなかった。
- 完 -