蜜金魚

「なんか簡単に作れておいしいおやつないですか?」

Utubo
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「みかんの缶詰とゼラチン買ってきて、ゼリーにしてみるのはどうですか?」

サークルの部室。机にもたれた坪内が言った。

aoto'
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なにそれ素敵。
今日ぜひとも作ってみよう。

「ところで坪内くん、暇だ」

私のサークルはバイク専門だが活動内容は、ただただバイクの話をし暇を見つけては集まりバイクを乗り回すだけのサークル。

そう実は私はそんなにバイクが好きではない。ただカッコイイ先輩がいただけだ。

イツキ
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先輩と一緒に行うサークル活動は本当に楽しかった。比喩なんかじゃなく、毎日が輝いてみえた。

けど、それも去年までの話。先輩はもう卒業してしまった。残された私は気づけば最上級生で、部長なんかを押し付けられてしまっていた。そのせいでサークルを辞めることも出来ない。

「暇なら、久しぶりに本格的にサークルっぽい活動します?」
「…それはめんどくさい」
「そう言うと思ってました」

坪内はため息をつく。

雪中花
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坪内のため息が部屋に響き、静寂が訪れる。

「暇だ」

「暇ですね」

遠くで蝉が鳴いているのがよく聞こえる位、静かだ。

じゃあ、と私は口を開いた。

「ゼリー、作ってみませんか?」

ハル
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しゃかしゃかしゃかしゃか。

ゼラチンを水に溶かしていく。

「……大変な事に気付きました」

「缶切りならさっき買い足したばかりですよ」

缶詰め買って、缶切りが無いというベタなミスをして買い直したばかり。まさか坪内くんも、缶切りを使えないなんて事はあるまい。

「缶切りの使い方……ググれば分かりますかね」

「……そう信じているよ」

この後、ギーコ ガンガン と騒々しく缶詰めと奮闘する。

ユリア
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「……もう一つ大変な事に気付きました」

「もう驚く気力もない」

「ゼラチンは冷やさないと固まりません。サークル室に冷蔵庫はない。よって……」

はぁーっと溜息をついて、心持ちひんやりした机に頭を預ける。容器にしたグラス越しに窓の向こうを見た。憎らしいほど青い空と、みかん。液には少し気泡が入って、みかんが金魚のようだ。

暑いけれど、確かな風が頰を撫でていった。

のんのん
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思い出したように坪内が切り出した。
そういえば、先輩って。
「早川先輩のこと、好きでしたよね?」

「ツーリング日和だね」
あくまで私は涼やかに風を受け続ける。
坪内に視線をやらないのは心を気取られない為じゃない。今この瞬間の空を堪能していたいだけだ。それに、驚く気力もないと言ったばかり。前言撤回は先輩の威厳に関わるしね。

「先輩」

顔が熱い。冷えてないのに固まる私。
冷静に。クールにゴーだ。

似瀬 晴哉
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「まあ、昔の話だよ」
決まった。クールにゴーは見事にゴールを決めた。

みかんの泳ぐグラス越しに空を眺めながら、今日の晩ご飯も素麺かなと顔をしかめる。
すると、見慣れたはずの顔がグラス越しに赤く広がった。

「先輩、一番大変なことに俺、
最近気づいたんですけど」

夏の始まりに吹く風がスッと抜けて
カーテンを揺らした。

emi
- 完 -

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