王様の気がかり

それは今よりずっと昔のこと。 あるところに一人のお姫様がおりました。 王様はお姫様のどんなお願いも聞き入れていましたから、お姫様はわがままな性格になってしまいました。 今日もお姫様は王様にお願いをしに行きます。

Riru+

11年前

- 1 -

「ねぇ、お父様。私、庶民になってみたいの」 お姫様は戯れに言ってみました。理由は単純そのもの。ただ言ってみたかっただけ。 そんな私の願いを王様は快く聞き届けました。 お姫様がふかふかの暖かいベッドに入り、すーすーと可愛らしい寝息をたてはじめた頃。王様の臣下達はお姫様のネグリジェを優しく着替えさせ、起こさぬよう静かにお城の外にお姫様を運び出しました。 連れて行った先は街の老夫婦の家でした。

KELL

11年前

- 2 -

老夫婦は筋金入りのケチでした。少しでも浪費をしている人を見つけたら、たとえそれが見ず知らずの相手でも、容赦無く数時間はぶっ続けで説教をするほどケチでした。けれど、だからこそ王様はその老夫婦にお姫様を託すことにしたのです。 老夫婦は、食費が一人分増えると考えただけでもお姫様を受け入れるのは嫌でしたが、王様の命令でしたので仕方なくお姫様を預かることにしました。 お姫様はそんなことも知らずに眠っています

kam

11年前

- 3 -

いつもより早くお姫様は目を覚ましました。寝心地が悪かったのです。 固いシーツと薄い敷布、枕だって少し湿っぽいのです。ベッド台もギシギシ音が鳴ります。 そういえば、いつネグリジェを脱いだというのでしょう。お姫様が着ているのは肌通りの悪い、カサカサした衣服でした。 お姫様は夢を見ていると思いました。昨日、庶民になってみたいなんておねだりをしたものですから、こんな夢を見てしまったのです。

aoto

10年前

- 4 -

お姫様がシーツを被り直すと同時に、見知らぬお婆さんがやってきてシーツを取り上げてしまいました。 「なんだい、まだ寝ている気かい!さあ起きた起きた!アンタがこんな所で寝ていたってビタ一文にもなりゃしない!」 どうやら夢ではありません。 お姫様は本当に庶民になってしまったのです。 お婆さんは朝食の硬いパン一切れと綺麗な封筒をお姫様に押しつけて、さっさと仕事に戻ってしまいました。

Felicia

9年前

- 5 -

『雪が降る頃に迎えに行くよ、愛しい我が娘。それまで、しばしの別れを』 パンはまるで木屑のような味がして到底食べれたものじゃありません。お姫様は泣き始めました。お姫様の朝は執事の淹れた香り高い紅茶から始まるのです。なのに、庶民の暮らしとは!紅茶どころかスープもないなんて。 手紙は無情にもお姫様をお城へ帰す気はないようでした。雪の季節など、まだ遠い先のことです。

Ringa

9年前

- 6 -

零れ落ちたお姫様の涙は、硬質なパンをしっとりと濡らします。 「お父様、私は姫に戻りたいわ。お父様……」 世間知らずなお姫様は、街から城へ出る道も知りませんでしたので、雪が降るのを待つ他仕方ありません。 お姫様が椅子に腰を下ろそうとすると、木の脚がポッキリと折れてしまい、お姫様は尻餅をついてしまいました。壊れた椅子を睨んでいると、無数の傷が木に刻み込まれていることにお姫様は気がつきました。

- 7 -

お姫様が折れた脚を手に取り眺めていると、突然後ろから声がしました。 「儂らは世間じゃケチ夫婦だと言われてるが、好きでやってる訳じゃないんじゃ」 「!」 お姫様が振り返ると、そこにはお爺さんが立っていました。 「儂ら二人とも身体を壊してしまってな。だから、働く事も出来んのじゃ。だから、少しでも切り詰め、使える物は出来るだけ使うしか無いんじゃよ。ま、アンタには解らんじゃろうがな」 「…」

hyper

9年前

- 8 -

「解りっこないわよ」  だって、私はお姫様だもの。お姫様は呟きました。 「そういうわけにはいかんのじゃ」  お爺さんは言い放ちました。王様からの命令には逆らえません。そして、王様はお爺さんと約束したのです。もしあのわがまま娘に庶民の気持ちを分からせたならば、お前たち夫婦に褒美をやろうと。  お姫様とお爺さんは睨み合いました。この街に雪が降るのはまだずっと先のことです。

- 完 -