ましろと私の生活

まさに、食べちゃいたいくらい可愛いとは この子にピッタリの表現だと思われる。 白くてふわふわの毛。まんまるの体。 来たばかりの頃は白玉餅と言われていたのが、今では大福と例えられるほど肥えてしまったその姿。 警戒というものを全く知らないかのように、私の手のひらで無防備に眠っているこの子。雪のように真っ白なそのボディから、名前を"ましろ"と名付けている。

sakuragi

11年前

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ましろは犬でも猫でも、ハムスターでもない。 唐突に私の部屋に現れた"白い何か"だ。 試験勉強中の深夜一時、勉強机のスタンドの上二三センチの所で浮いていた。白玉大の綿ぼこりが浮かんでいるのかと思って「でかい埃だな」と指でつまもうとしたところ、うにょっとその球体を歪ませて私の指から逃げた。 慌てたようで、鉛筆の先に刺さって耳かきのフワフワのように震えていた。 それが私とましろとの出会いである。

さかがみ

11年前

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最初はただ可愛くて、しばらくつついていたらましろも私に懐いてきた。 それからは、私が勉強している時には私の近くをウロウロしたり寝る時には私の顔になすりついたり。可愛かった。 不思議とましろからは太陽のような暖かい香りがした。 今思えばいつも一緒だった。 けどある日、事件はおきた。

moti

11年前

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さすがに学校には連れて行けなかったので、 仕方なく部屋にお留守番してもらうことにした。 しかし、その時は一刻一刻と迫っていた。 掃除好きの母が、部屋に来たのだ。 帰宅してからは大騒ぎ 母を問いただし、ましろは掃除機に吸い込まれたことが分かった。 必死に探し出し、ましろは救出された。 ましろというよりは真っ黒だったが。 お湯で洗いドライヤーで乾かすと、 ましろはビックサイズになってしまった…

流零

11年前

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大きくなってしまったのは、いわゆる水ぶくれというやつなのだろうか。それも一回り大きいくらいならまだ良かったのだが、なんと私の部屋を埋め尽くすくらい巨大化してしまったのだ。 さすがにこの大きさではましろを家においておけないので、両親に相談したら、ましろを何処かに捨てて来いと言われてしまった。 「どうしよう…」 どうしても捨てたくなかった。ましろは、いつの間にか私の大切な家族になっていたのだ。

kam

11年前

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でも、それと同時に考えたことがあった。ましろ自身はどう思っているのかということだ。 ましろは私に懐いてくれたし、どんな時でも一緒にいてくれた。私はましろとの毎日が何よりも大好きだった。 けど、ましろは? 喋ることの出来ないましろは、いつも小さな体を揺すって嬉しそうに私の呼びかけに応えていた。 でも、もしもそれが私の身勝手な解釈だったとしたら…… 「ねぇ、ましろ。あなたはどうしたい?」

てとら

11年前

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ましろは動かない。 いや、膨らみすぎて、私の部屋はで思うように体を動かすことも出来ないのだ。 「……やっぱり、ここじゃ無理だよね」 ロクに動けもしない環境が、ましろにとって幸せとは到底思えない。私はましろを捨てることを泣く泣く決心した。 ぎゅっと抱きつくと、胸を満たす太陽のような匂い。 手放すのは、あまりにも淋しい。 「ましろ……」 私の頬から涙が伝い、ましろに吸い込まれて行く。

11年前

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巨大化したましろを家から出すのは至難の業だった。それでも、柔らかい体のおかげで何とか外へ連れ出せた。 「……ごめんね、ましろ」 別れの前にもう一度抱き締めた。思えば、ましろが外に出たのはこれが初めてだ。 「こうなる前に、外を見せたかったな……」 その時、ましろの体から、小さな毛玉が空へ浮かび上がった。それは数を増やし、次々空へ昇ってゆく。対してましろは徐々に小さくなる──タンポポの綿毛のように。

流され屋

11年前

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驚き、その様子を凝視していると、ましろは消えた。いや、分裂した…のだろう。 飛んでった綿毛のひとつひとつ全てが、命を持ったかのように空を楽しげに飛び回る。 もしかしてーーーこれ、子供を生んだってことなのかな? ましろ自体はいなくなったが、同じようなやつが大量に出てきた。その、綿毛達はどんどん空へと吸い込まれる。きっと本来はここにいるべきではない子達だ。 さようなら。 私は涙を飲んで部屋に戻った。

Dangerous

11年前

- 完 -