今ここにある死体は探偵ではない
「視点を変えて話してみましょう」
「今ここにある死体は森野さんのものだと考えられています。しかし、これが森野さんの死体でないとしたらどうでしょう?」
探偵の言葉に場は騒然とした。では、この死体はいったい誰だと言うのだろう。
「では、いったいこれは誰の死体なのか?お答えしましょう!」
探偵が得意げに発した言葉に、この場にいる誰よりも私が驚愕しただろう。
発せられたのは私の名前だった…
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「な、なぜその死体が私であるわけがありましょうか!私は生きてちゃんとここにいます。死んでなんかない!」
私は必死になって訴えたが、探偵は表情を変えずに腕を組む。
「では、次はこう考えてみましょう。……今、ここにいる全員があなたを今井隆夫さんだと思っていますが、もしも、あなたが実は今井隆夫さんでなかったとしたら」
何も言い返せない私に探偵は指を突きつけた。
「あなたが犯人なんですよ森野さん」
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「いやっ!私は森野さんじゃないっ!
信じてくれっ!」
周りの目は冷たいままこちらへ向けられている。
くそっ、誰にも信じてもらえ…な…
…まてよ?
もしかしたら、私は森野なのか?
周りがそう思い込んでいるように、私も自分を今井だと思い込んでいる…?
…いやいやまっさかぁ!
そんなわけ…、そんな、そん…な…
「あなたが犯人ですね?森野さん」
「…はい」
- 3 -
そう、私は森野。
いや、今井隆夫…? いや、森野?
目の前には死体が一つある。そしてここには関係者が全員集められている。それは事実。
「自分で自分を殺したことにして、あらたな人生を歩むつもりだったのですね?」
「はい…」
つい、状況に乗せられてそう答えてしまう。周りの視線が疑惑へと変化する。
何だ、これ。
冤罪だ。
私は自分を失い、犯罪者に…させられようと…
この探偵に、心を、操られ──
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いや、違う。
探偵は私を助けようとしているんじゃないか。
私が死んだと思わせて、真犯人を炙りだそうとしている…?
何のために?
もしかしたら探偵が真犯人なんじゃ……?
いや、待て。
冷静になれ。私は間違いなく今井だ。
しかしそれを証明できない。
どうして?
この死体が森野で私が今井。
これすらも偽りだとしたら?
私が私である証明ができるのは。
「違います。この人は森野じゃありません!」
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名乗りをあげた少女は高沢由佳と名乗った。
「あなたは森野さんのことを知っているのですか?」
「もちろんです」
「本当は知っていると思いこんでいるだけではないのですか?」
高沢は自信を失ったように、けれどもはっきりと言った。
「この人は森野さんではありません。私にはそれがわかるのです」
探偵は唸りながら目をつむった。
「あなたが森野さんではないとするなら、あなたは一体誰なのですか?」
私は今井だ。
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「私は今井です」
探偵は信じる様子もなく、ふうんと唸っただけだった。そして高沢と名乗った少女に向き直る。
「高沢さん。ではあなたはこの亡くなっている人が森野さんだと言うのですか」
探偵に言われ、少女はおずおずと死体を確認した。
「……違います。これも森野じゃ、ない」
また疑惑の目が私に集まる。駄目だ、心を強く持て。私は今井、今井なのだ。
少女が再び口を開いた。
「森野はあなたでしょう、探偵さん」
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「面白いことを仰る。ならばこの死体は誰なんです」
「今井さんです。最初にそう言ったのはあなたでしょう」
「それは、そこの彼が森野であるという前提での話だ」
探偵と少女の会話を、私はただ呆然と聞いている。
結局、私は誰なんだ。
「仮に私が森野だとしたら、ここに呼んだ筈の探偵は何処にいるんです。高沢さん、まさかあなたが探偵だと?」
「私じゃありません」
そう答えて少女は私を見た。
え、まさか。
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「先生、牛丼特盛つゆだくです!」
私にかけられた催眠を解くキーワードを高沢が叫んだ瞬間、私は全てを理解した。そして探偵…いや森野を睨む。
「今井を殺して入れ替わるはずが、私が今井だと言い張ったので探偵役をやらざるを得なかった…そうですね、森野さん。あなたが犯人だ」
そう…私こそが探偵。
暗示にかかりやすい体質を生かし、助手の高沢に催眠をかけられる事で事件を解決する探偵…それが私だ!
…たぶん。
- 完 -
作品情報
今ここにある死体は探偵ではない
#12076
- リレー期間
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4ヶ月