ん
俺は勇者だ。国王が、困ったことになった様子だから、助けるぜ。
何でも、姫が魔王に攫われたようで、7日以内に12神将を倒し、聖なる石板を完成させて、魔王城に行って四天王を倒して、魔王を撃破して姫を救えばいいようだ。
王は旅のお供にと、150Gと聖なる剣をくれた。
城下町を出ると、風が吹き抜ける。
俺は決意した、生きて帰ると。
この戦いが終わったら、結婚するんだから。
そして、一歩を踏み出した。
- 1 -
と、僕は寝言で言っていたらしい。
恥ずかしい。なんとも恥ずかしい。
こんな羞恥は僕史上、いや、人類史上初めてかもしれない。
修学旅行一日目の夜で、僕はもうやらかした。
藤井が僕に言った。
「お前、終わったな。」
同じ部屋の男子によって、僕の寝言の件は瞬く間に生徒の耳に浸透していった。
もちろん、女子にも。
最悪な修学旅行だ。
- 2 -
「ねー知ってる?四組の竹村君…」
「知ってる知ってる。寝言で勇者とか言ってたんでしょ?」
「本当、男の子って子供よね〜」
次の日の観光中、俺の姿を見るやいなや、クラスメイトの奴らは俺の寝言の話を始める。
「よかったな〜竹村っ!女子の会話はお前の事で持ちきりだぜ?」
相変わらず空気の読めない藤井が肩を叩く。
うるせーよ、お前らは俺じゃなくて金閣寺を見ろ。
- 3 -
その後も俺は一日中あちらこちらで囁かれる羽目になった。
全然知らないギャル系女子にまであけすけに笑われた。誰だお前。
疲れ果てた俺は、鹿せんべいを齧りながら公衆トイレの裏に座りこんだ。
「お前、竹村?」
え、
「勇者の竹村だろ?」
だからなんでっ!
俺はヤンキー系男子とも絡んだことは無い!
「俺、戦士なんだ!」
「…は?」
切羽詰まった様子のヤンキー系男子、一組の多田。
なにこれ?
- 4 -
「は、あの、どゆこと?」
わけも分からず、思い切って訪ねてみる。
「だから、戦士なんだって俺!」
駄目だ通じてない。「俺は戦士だ」の一点張りだ。
「悪いな、俺の寝言に同情してんなら放っておいてくれ…じゃ俺班に戻んなきゃ」
そそくさと戻ろうとしたら、多田は一層に声を張り上げた。
「他にもいるぞ!魔法使いは大滝だし、僧侶は今井!盗賊は高峰で、狩人は坂田!皆、お前と同じ夢見てんだ!」
- 5 -
「いやいや待ってくれよ。いろんなツッコミを置いておいて多田の話を鵜呑みにするとして、お前は俺に何をさせたいんだよ」
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「もちろん決戦だ」
「……な…んだって?」
この時の俺がどんな顔をしたか分かるだろうか。
「すでに12神将を倒し石板を手に入れてる。今夜魔王城への道を開いて四天王と魔王を一気に片付けよう」
俺を嘲笑った同級生達の気持ちがよく分かる。この沈黙をどう捉えたのか「大丈夫、俺らは強い!」と多田は言った。
それからひらひら手を振って去って行った。
「夢で逢おうぜー」と怖いセリフを残しながら。
- 7 -
そして、夜。
今日は、勇者発言のせいで疲れているのに多田の戦士発言で更に疲れた。
倒れこむように布団に入る。
「勇者のくせに体力ねぇな」と藤井。
うるさい勇者様は大変なんだよ、と言おうとしたところで強烈な睡魔に襲われた。やっぱり疲れてたんだな、俺。
「………………い!…つま……てんだ!」
一組の天田がどうかしたか。
「いつまで寝てんだって言ってんだよ‼︎」
拳骨が脳天に炸裂。
「……多田?」
- 8 -
あたりは薄暗い。まだ夜なのだ。クラスメイトの寝息が微かに聞こえる。そして俺を見下ろす多田の後ろにはーー「今井、高峰、坂井?」
「だから俺ら4人とお前は同じパーティーなんだって!」と多田。
「悠長に説明している暇はない!」と今井。
「超現夢で見た通りだ。魔王の正体が分かった。実体はこちらの世界にいる!」と高峰。
隣の布団から藤井の寝言が聞こえた。
「やるな勇者ども。だが貴様らが倒した私はただの幻…」
- 完 -
作品情報
ん
#6875
- リレー期間
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3ヶ月