殺意の部屋
だから、その…嘘なんかじゃないんだ。
…殺したのは、敬太だよ。
彼氏がいきなり、「人を殺したんだ。」なんて言うから一瞬驚いたりしちゃったんだけど、ちょっと冷静になって、ああ、いつもの冗談か、と思った。
はいはい、そうなの。んで、敬太くんの遺体は?
ただ、冗談にノッただけのつもりだった。
リアリティを出したいのか、敬太くんの家にまで連れてこられて。
そして、私は人生で初めて遺体を目にした。
- 1 -
敬太くんは、血溜まりの中で、仰向けになって倒れていた。
胸には、包丁が刺さっている。
えーと、ドッキリ?
それとも、スプラッター映画の撮影?
「本当に死んでるんだよ…。俺が、殺しちまったんだ。」
彼が私の心を読んだかのように、事実を
事実として伝えてきた。
…え?
私の目の前で
人が刺されてて、死んでいる。
殺したのは
隣に居る、彼。
彼は、人殺し。
…怖い。
殺される…!
- 2 -
ま、まずは警察呼ばないとっ
私は携帯に手を伸ばした。
「待ってくれっ…お願いだから…」
血の付いた手で手を掴む
「やっΣ」反発的に払う
すると、彼は目つきが変わり敬太に刺さっていた包丁を抜き私の首に当て
こう言ったのだった-----。
- 3 -
「正直に話した理由、分かるよな」
私はドキリとして辺りを伺った。何か武器になりそうな物ー。
「何? いきなり。私に彼女として助けてくれとでもいいたいわけ?」
「それもある。おまえの協力なしでは捕まってしまう」
私はコンビニの小さな傘を見つけた。幸い私の背に隠れ、彼の視界に入らない。
「でも、それ以上に理解しているはずだ。なぜ、俺が敬太を殺したのか」
鼓動が早くなる。傘を掴もうとした手が一瞬止まる。
- 4 -
私は敬太くんと二回だけ寝た。
敬太くんは寡黙だし、彼氏の友達とはいえ、頻繁に会う間柄ではない。バレるはずはないと思っていた。
「分かるよな?」
もはや別人の表情で彼は私に詰め寄ってきた。
力なくその場にへたり込む。腰が抜けるとはこういうことを言うのか、などと呑気な思考が恨めしい。
「とにかく、このままじゃ腐敗して隣人に気づかれる。バラして焼いちまおう」
マジですか!?
あんた本当に彼氏?
- 5 -
「う、うん。わかったよ…」
私はこころにもない返事をした。隙を見て逃げ出すしかない。叫んだところで、この新築のマンションでは、声はどこにも届きそうにない。
がむしゃらに玄関に突進したところで、途中で腕を掴まれて終わりだ。油断させるにはどうしたらいい?
「ねえ、あたし、ビックリして口の中がカラカラだよ。何か飲み物ないかな」
震える声で私は言った。
- 6 -
「あぁ、冷蔵庫に飲み物くらいあるだろ。どうせこいつにはもう必要ない。念のため、手袋かなんかつけて触れよ」
私はリビングに身を滑らせ、そのまま玄関まで全力で走り抜けた。私の彼氏は異常だ。直ぐに警察に連絡しないとーー
短い廊下を抜けると、しかし外に出る事は叶わなかった。ドアノブが破壊されている。これでは外に出れない。
しかし、それは彼も同じ事。ここは今ら、彼と私を残した完全な密室。
ーーまさか
- 7 -
仄暗い廊下にじわりと影が伸びた。騒々しい心臓の音では、ジーンズの裾を引き摺る音は消せなかった。
「そっちだっけ、冷蔵庫」
開けてもいない冷蔵庫の冷気で、振り返ることができない。
「か、かぎ」
「ああ、もう俺が確認したから」
敬太くんのこともそうだけど、私の彼氏は時々察しがいい。
身動きのできないまま、私は優しい彼の腕に捕われてしまう。
こんなにドキドキするの、いつ以来かな?
- 8 -
この場所で、あの女に毒入りのお茶を飲ませた時以来……かな。
敬太くんと同棲してたあの女は、こともあろうに私の彼を誑かしていた。あの女が苦しみもがく様を後目に部屋を出たけど、ニュースにならなかったところを見ると、あとで帰った敬太くんが遺体を処理したんだと思った。二人はうまくいってなかったみたいだし。
ここで秘密の交換をしたら、彼と永遠に結ばれるのかな。彼が敬太くんのようにできるといいんだけど。
- 完 -
作品情報
殺意の部屋
#975
- リレー期間
-
3ヶ月