殺意の部屋

だから、その…嘘なんかじゃないんだ。 …殺したのは、敬太だよ。 彼氏がいきなり、「人を殺したんだ。」なんて言うから一瞬驚いたりしちゃったんだけど、ちょっと冷静になって、ああ、いつもの冗談か、と思った。 はいはい、そうなの。んで、敬太くんの遺体は? ただ、冗談にノッただけのつもりだった。 リアリティを出したいのか、敬太くんの家にまで連れてこられて。 そして、私は人生で初めて遺体を目にした。

13年前

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敬太くんは、血溜まりの中で、仰向けになって倒れていた。 胸には、包丁が刺さっている。 えーと、ドッキリ? それとも、スプラッター映画の撮影? 「本当に死んでるんだよ…。俺が、殺しちまったんだ。」 彼が私の心を読んだかのように、事実を 事実として伝えてきた。 …え? 私の目の前で 人が刺されてて、死んでいる。 殺したのは 隣に居る、彼。 彼は、人殺し。 …怖い。 殺される…!

minami

13年前

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ま、まずは警察呼ばないとっ 私は携帯に手を伸ばした。 「待ってくれっ…お願いだから…」 血の付いた手で手を掴む 「やっΣ」反発的に払う すると、彼は目つきが変わり敬太に刺さっていた包丁を抜き私の首に当て こう言ったのだった-----。

nanamiso⍥

13年前

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「正直に話した理由、分かるよな」 私はドキリとして辺りを伺った。何か武器になりそうな物ー。 「何? いきなり。私に彼女として助けてくれとでもいいたいわけ?」 「それもある。おまえの協力なしでは捕まってしまう」 私はコンビニの小さな傘を見つけた。幸い私の背に隠れ、彼の視界に入らない。 「でも、それ以上に理解しているはずだ。なぜ、俺が敬太を殺したのか」 鼓動が早くなる。傘を掴もうとした手が一瞬止まる。

aoto

13年前

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私は敬太くんと二回だけ寝た。 敬太くんは寡黙だし、彼氏の友達とはいえ、頻繁に会う間柄ではない。バレるはずはないと思っていた。 「分かるよな?」 もはや別人の表情で彼は私に詰め寄ってきた。 力なくその場にへたり込む。腰が抜けるとはこういうことを言うのか、などと呑気な思考が恨めしい。 「とにかく、このままじゃ腐敗して隣人に気づかれる。バラして焼いちまおう」 マジですか!? あんた本当に彼氏?

B.I.L

13年前

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「う、うん。わかったよ…」 私はこころにもない返事をした。隙を見て逃げ出すしかない。叫んだところで、この新築のマンションでは、声はどこにも届きそうにない。 がむしゃらに玄関に突進したところで、途中で腕を掴まれて終わりだ。油断させるにはどうしたらいい? 「ねえ、あたし、ビックリして口の中がカラカラだよ。何か飲み物ないかな」 震える声で私は言った。

旅人.

13年前

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「あぁ、冷蔵庫に飲み物くらいあるだろ。どうせこいつにはもう必要ない。念のため、手袋かなんかつけて触れよ」 私はリビングに身を滑らせ、そのまま玄関まで全力で走り抜けた。私の彼氏は異常だ。直ぐに警察に連絡しないとーー 短い廊下を抜けると、しかし外に出る事は叶わなかった。ドアノブが破壊されている。これでは外に出れない。 しかし、それは彼も同じ事。ここは今ら、彼と私を残した完全な密室。 ーーまさか

やーやー

13年前

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仄暗い廊下にじわりと影が伸びた。騒々しい心臓の音では、ジーンズの裾を引き摺る音は消せなかった。 「そっちだっけ、冷蔵庫」 開けてもいない冷蔵庫の冷気で、振り返ることができない。 「か、かぎ」 「ああ、もう俺が確認したから」 敬太くんのこともそうだけど、私の彼氏は時々察しがいい。 身動きのできないまま、私は優しい彼の腕に捕われてしまう。 こんなにドキドキするの、いつ以来かな?

sir-spring

13年前

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この場所で、あの女に毒入りのお茶を飲ませた時以来……かな。 敬太くんと同棲してたあの女は、こともあろうに私の彼を誑かしていた。あの女が苦しみもがく様を後目に部屋を出たけど、ニュースにならなかったところを見ると、あとで帰った敬太くんが遺体を処理したんだと思った。二人はうまくいってなかったみたいだし。 ここで秘密の交換をしたら、彼と永遠に結ばれるのかな。彼が敬太くんのようにできるといいんだけど。

saøto

13年前

- 完 -