猫の目が光る時

俺達は全身を白い防護服に身を包み、巨大な扉の前に立っていた。
扉には、大きな文字でこう書かれている。

【LEVEL-4】

「やれやれ、今日もこの中に入るのか…」
「まあ、ボヤくな。これも仕事のうちだ」

俺がスイッチを押すと、けたたましいサイレン音と共に、扉が重々しい音を立てて少しずつ開き始めた。

「さて、行くか…」
「ああ…」

俺達は、ゆっくりと施設の中に足を踏み入れた。

hyper
- 1 -

俺達は働く。
生まれた時からずっとここにいて、外界と遮断されているこの工場を出たことがない。物心ついたころから毎日、この果てしなく大きな工場の各施設で、ガレキ処理を続けている。

何のために。
誰のために。
答えは与えられない。外のことは何も知らない。

俺達の後ろで、重いドアが閉ざされる。
「…っ」
LEVEL-4の施設は、時間制限付きだ。重力が違うみたいに酷く身体が重い。長くいられない場所だ。

- 2 -

錆び付いた工業機械が軋み、悲痛な叫び声をあげながら動いている。
腐金属粉の舞うこの施設において、工業機械の劣化の早さは大きな問題になっていた。
稼働自体は遠隔操作によるものだが、整備は人力で行うしかない。
だが長時間、分厚い防護服を着たまま整備を行うのは骨の折れる作業であり、また人体にも有害であるとされていた。

打ち捨てられた工業機械を横目に見ながら、腐金属粉の舞う施設を目的地まで歩く。

Fumi
- 3 -

アームの動きは腕というよりヘビか、操作室の奴等が遊んでいるふうで腹の立つ。しかし確実にガレキの山を噛み砕いていく。この一帯は異常なし。ガレキが、深く深く底へ落ちた。

問題があるとされた地点へ到着する。
「やれやれ、ネコかね」
相棒は阿呆だから寝言しかボヤかない。確かにその昔は車にネコが云々、聞いたことがある。こんな工場のエンジン部にはいないだろうが。
「さっさと帰ろう」
俺は工具を降ろした。

サンディー夕朗
- 4 -

専用の工具を用いて、パーツ毎にバラしていく。まともな換気なんてされていないこの建物。エンジン部分の蓋を開ければ防護服越しでも腐敗したようなピリピリとした臭いが感じられる。

数分後、欠けて機能していないパーツを見つけた。
「この部品が欠けるって珍しいな…LEVEL-5でも報告聞いたこと無いぞ」
「いよいよ猫が齧った説が濃厚になってきたな」

冗談のようだが、この欠け方は余りにも不自然だった。

BALL
- 5 -

「とにかく交換だ。ナット」
制限時間は一時間。ケビンは優秀な整備員だった。分厚い防護服越しでも器用にナットを交換していく。
チリが降り積もる工場は、見ようによっては幻想的だった。
「猫か。猫に齧られたんじゃなきゃ、他になんでこんな風になる?」
「さてね、ちょっと想像がつかない。操作室の奴らが操作をミスったか…」
整備はものの二十分で終わった。
「ほら、これで終わりだ。さっさとずらかるぞ」

Utubo
- 6 -

「ガッシャン」
慌てて振りかえるがどうやらただ部品が落ちただけだった。
気にせず帰ろうとした時に相棒が突然中に浮いた。
いや、正確には猫のような生物が長い舌で相棒の首を貫き相棒を引き上げていた。
そして、猫は口を大きく開けて相棒を丸呑みにした。バリバリと嫌な音が響き渡る。
俺は恐怖のあまり身体中が痙攣して動けなかった。 そんな俺を嘲笑うかのように猫はゆっくりとこちらを見つめた。

深夜
- 7 -

じっとしてたらヤられる。
俺は走った。
走りながら緊急通信を発令した。
叫ぶように報告する。
「こちら、LEVEL-4、アーサー! 整備任務中に猫型生物に襲われた。相棒のケビンがそいつに丸呑みされて喰われちまった。全セクションへ通達。LEVEL-4で猫型生物に襲われた。緊急救助を願う。繰り返す……」
複雑に入り組んだ機械群の中をあちらこちらと移動しながら、俺は猫野郎の視界から逃げようと必死だった。

ぷにぷにヒロ坊
- 8 -

だが相手の応答はない。俺は舌打ちして腰から非常用の警棒を抜く。
T字路を左に曲がり立ち止まる。猫が飛び出したところで警棒を突いた。高電圧を帯びた先端が猫の左目から脳天を貫き、猫は痙攣しながら倒れる。白い防護服にかかった血を睨みつけた。
人が防護服を着て時間内に仕事する環境に、普通の猫がいる方がおかしい。

これが噂に聞く、工場管理者の遊戯処刑か。

機械の影から、猫の目が光っている。

Joi
- 完 -

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