むかしむかし、ある所にお爺さんとお婆さんがいました。
- 1 -
日も傾いて、山へ芝刈りに行ったお爺さんと川へ洗濯へ行ったお婆さんは家に戻りました。 「おやまぁ珍しい事もあるもんだねぇ」 お爺さん、お婆さんそれぞれの手には、大きな大きな桃が抱えられていました。 「早速割ろうか」 お爺さんがそう言うとお婆さんが包丁を持って、2つある内の色が良い大きな桃に包丁を当てました。
- 2 -
ガキンッ! 硬くて切れませんでした。 お爺さんとお婆さんは、色の良い大きな桃は諦める事にしました。 次に、まだ熟していなさそうな小さな桃に包丁を当てました。 ガキンッ! 硬くて切れませんでした。 あの鬼を退治して金銀財宝を持ち帰った桃太郎みたいな子供が中から出てきて、億万長者になれると思っていた二人は、どうにかして割れないものかと考える事にしました。
- 3 -
どうしたものか。 お爺さんはは考えました。 「そうだ、芝刈り機をつかえばいいんだ!」 この時、お爺さんはまだ気づいてなかったのです。もし中にヒトが居たとしたならば、マジでヤベーという事に。 しかし全く気づかないバカなジジイは、ついにその桃に芝刈り機をあててしまったのです。 「ガリガリガリガリ…」 すると、 「.......‼」
- 4 -
すると! 中からエイリアンの触手が延びてきてお爺さんに襲い掛かりました。 触手はお爺さんに絡みつき桃の中に引き込もうとしています。 その様子をお婆さんは見ているだけでした。
- 5 -
(このゾクゾクする感じ、何年ぶりかねぇ…) お婆さんは、お爺さんを尻目に楽しんでいた。 『お爺さん、だらしないったらありゃしないよ!』 そう言ってやっと立ち上がると、婆さんは半身に構え、どっしり腰を落とす。捻った上半身はギリギリと音を立て、力の解放を待つ。 そして、刹那── 放たれた掌打が桃を捉える。 エイリアン桃は吹き飛び、家の壁をぶち破った。 『おやおや、本当に丈夫な子だねぇ』
- 6 -
『様子見言うて国会議事堂粉砕レベルの威力でもってしたんだけどねえ。どこぞの馬の骨かは知らないけど、【興】を魅せてやろうぞ』 おばあさんは、両の手の腹を、吹き飛び、宙で弧を描く桃(エイリアン)に向かった。視界に映る桃に焦点を当てる姿はさながら狙撃手。 『標的標準捕捉確認。スタンダードスロットル【興】。起動から発動までの手続き割愛。即座に攻撃に移る』 その異様な様子を見ながら、おじいさんは叫んだ。
- 7 -
「お、おい!ばぁさんや!やめてくれ!ワシまで粉砕してしまうわい!」 お爺さんは必死で叫んだ。 そりゃそうである。何しろ何十年も連れ添い人生を共にしたあの優しいお婆さんに今まさに殺されかけているからだ。 「破ーー!!」 お爺さんの救済虚しく凄まじい光がお婆さんから発せられる。 薄れゆく景色の中、お爺さんは思った。 ーそうじゃ・・・昔も喧嘩した時ばぁさんから例えも出来ない殺気を感じたものじゃ。
- 8 -
桃の破片と飛沫が霧になって広がりました。 吹っ飛んだものの爺さんは無事でした。 それどころか、なんと80歳は若返っていたのです。 「こりゃたまげた!」爺さん驚きました。婆さんも80は若返っていたのです。 あの桃こそ桃源郷の不老不死の桃だったのです。 若返った二人は当然、激しく愛しあい、11人の子と35人の孫を授かりました。そして残った桃から若返りの妙薬を作り、今でもボロ儲けとさ。めでたしめでたし。
- 完 -