手品師 ジョニー黒田(51)vsジョージ竹松

私の名は、芸名「ジョニー黒田」(51)。 とある小さな健康ランドにご贔屓して貰っている手品師(に見せている超能力者)だ。 先日は、ひょんな事から手品教師を開く事になってしまい、しかも参加者の中に超能力者の子供までいて大変だった。 まあ本人は、自分が超能力者だと気付いている様なそうでない様なだが…。 (因みに、彼には後でおもちゃをあげて何とかごまかした) だが今回、更に困った事が起きた。

hyper

10年前

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「先生、ご無沙汰しております」 と声をかけて来たのは三井のおばちゃん。私の記憶が正しければ60歳の筈だ。 「いへいへ。どうも…」 このおばちゃんが持つスプーンに、以前、超能力を"照射"して曲げたという実績がある。あの手品教室は大賑わいだったが、私には内心引っかかることがあった。その予感は見事に的中した…。 おばちゃん、手元のスプーンを差し出しながら、「あれから全然曲がらないのよォ〜」

響 次郎

10年前

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頬に手を当て、合点がいかないと抗議のポーズ。 そりゃそうさ。先日は手品本が参考にならなくてビャーーーっと超能力を“照射”したんだから。 さて、今日はどう誤魔化そう。できれば個人レッスンの申込みは遠慮したい…なんて思った時。 「ちょっと失礼マダム。もしや手品でお困りですか?」 傍から掛けられた声は伊達気質に溢れるものだった。 「よければコツをお教えしましょうか?僕、手品解説本の著者ですので」

おやぶん

10年前

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声を掛けた男は、派手な黄色のスーツに立派な蝶ネクタイを付けており、派手な格好が嫌でも目に付く格好で、太陽でも直射しているように眩しかった。 「あら、貴方も手品師さんなの?」 三井のおばちゃんは目を細めながら、そう聞き返す。 「その通り。私は、ジョージ竹松。手品師です。著作は『魔法大全』『宇宙手品100!』『簡単!手品種明かし!』など。どれも傑作ですよ」 彼は得意気に微笑み、軽く会釈をする。

しとっぴ

10年前

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そして扇子でも開くかの如くパッと自分の著書累々を左手に花咲かせた。 「サインは私の本をお買上げくださった方へのみですよ。貴方も一冊如何かな?」 ジョージは鼻高々に私に『簡単! 手品種明かし』を突き出して来た。 これは…以前買ってしまったあのインチキ本だ。 「はて?その本とやらはどこですかな?」 私は指を弾き、この大先生の手からインチキ本を超能力で消してやった。 三井のおばちゃんは拍手喝采だ。

真月乃

10年前

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「な!?」 ジョージの奴は突然本が消えた事に驚いたようだった。どうだ見たかインチキ手品師め。 「インチキ本は私の手品で消させて頂きました」 したり顔で見ると、彼は三井のおばちゃんからスプーンを拝借していた。 「…やりますね。でもインチキだなんて人聞きが悪い。本を見てちゃんと練習したら……ほら!」 テレビでよく見る動作で、ジョージの手元のスプーンが曲がった。まさかこいつ、本当の手品師だったのか。

おちび

8年前

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 エクスペクトパトローナアム!  迸る電撃。ジョニー黒田とジョージ竹松は計ったようなタイミングでぴったり同時に超能力を打つ。宙を割き真横に走る落雷。遠い山の向こうで轟く雷鳴が、壁をぐわんと震わせるような爆音となり耳元で弾けた。  なんかしらんけど黒焦げになった三井のおばちゃんの焼死体を見た超能力無自覚少年がドン引きしている。 「なんてことしやがる!どうしてくれるんだこの小説!空気読め!」 ごめん。

noname

4年前

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「せっかく良いところだったのに」 唐突な質の悪い茶番。 どうやらここから先は有料コンテンツのようだ。 私はタブレットを机に置いた。 世界的なSNSの過激化により、ネットへのアクセスには高額なライセンスが必要となったのは古典βでも習う有名な話だ。 初めの頃は画期的だったらしいが、今となっては"まとも"な人間は違う星に行ってしまった。 超能力という謎の力の存在をこの星で発見したのは良かったんだが…

noname

3年前

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最新技術を使えば超能力と同じようなことは簡単にできるが、不思議な力に興味があった。 私は転生装置でさっきの登場人物に転生し、実際に超能力を体験することにした。 1周目は超能力少年にしようかな。 「ふぅ、久しぶりに時間を戻してしまった。で、スプーン曲げでしたね」 「そうよ〜。こうやっても……あら?曲がったわ!」 また超能力で曲げたのだが、そうとは知らない三井のおばちゃんは嬉しそうに笑った。

- 完 -