ついに、桃太郎は帰って来たのです! 愛情を込めて作ったきびだんごを渡し、「無事でいてくれよ」と願いながら背中を押した、その8日後。 なんと、桃太郎がおじいさんとおばあさんの元に帰って来ました。かわいらしい姫とたくさんの財宝も一緒です。おじいさんとおばあさんは大喜び。そして、桃太郎にこう尋ねました。 「ねえ、お土産話を聞かせておくれよ。一体この8日間に何があったんだい?」
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一日目 腰にきびだんごをぶら下げ颯爽と旅立った矢先、藪からだしぬけに飛び出して来たのはそれはかわいらしい姫君であった。姫君曰く四週間程前野盗に襲われ山中を彷徨い雉と犬を食してから三日何も口にしていないという。可哀想に思いきびだんごを渡すと大層喜んだ。姫君は野盗集団を壊滅させる程度には武芸には覚えがあると言い、旅の友をすると仰った。桃太郎は怖え。と思ったがかわいいから一緒に旅をすることに決めた。
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二日目 「小娘!友の仇、今こそ打ってやろうぞ!」 今度は猿がやってきた。どうやら姫君が食った雉と犬の仲間だったらしい。 「言い残す言葉も無し。断罪は我の業なり!即座に灰に帰せん!覚悟ぉ!」 猿が放った海猿拳を姫君は防御も回避もせず、圧倒的な防御力を持って受け流す。そして覇気のみで猿を吹き飛ばした。 姫君曰く、猿は美味しくないらしい。 桃太郎は船を手に入れようと次の街へ向かった。
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三日目 「あ?船だ?ひっく。知らねぇよ。これ? これは船だ。ひっく」 漁師を発見したがこの有様。よくよく話を聞いてやると奥さんが出てったらしい。哀れに思ったのできびだんごをあげたら何を思ったか海へ放り投げやがったので船は頂戴した。桃太郎はきびだんごを粗末にするやつは鬼よりも許さないのだ。 その酔っ払いがどうなったかはどうでもいいが、それよりも姫君が六人の船乗りをいつのまにか従えていてびびった。
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4日目 夜遅くに鬼ヶ島に到着。船中での出来事は…思い出したくないので、話したくない。 夜中だというのに、宴の日らしく、大騒ぎで歌い踊る鬼の巨体が見えた。それはそれは恐ろしい光景であったため、桃太郎は膝が震えた。 「姫は船中で…」待機していて下さい、と振り返るが、姫はいなかった。 一緒にきている船乗り達に聞いても分からず、姿は見当たらない。 船乗り達が慌てて探しに行こうとした、そのとき…
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姫が鬼たちを従えて島から戻ってきていた。何をしたのかは聞かなかった。鬼たちの有様が全てを物語っていたからだ。 それからはしばらく説教をした。一応主役として何かしらいいことっぽいのをしたかったから。 ついでに鬼がどのくらい強いのか興味があったので相撲を取ってみた。…片手で負けた 。鬼の強さを思い知ったのと同時に姫が一層怖くなった。 五日目 一日が宴会で潰れた。
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と言うと酒盛りして酔い潰れたかのように聞こえるが、その実潰れたのは姫を除く皆の肝だった。 「行くわよ、極悪大鬼ヶ島へ!」 宴会ですっかり打ち解けた鬼たちが愚痴をこぼした事がきっかけだった。 「姫、本気ですか?鬼同士のシマ問題を解決するなんて!」 「向こうはここの良弱な鬼たちの宝を我が物顔で握っているのよ。私たちが分捕り返さなくちゃ!」 貴方止める気? 桃太郎に命知らずな真似はできなかった。
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六日目 極悪大鬼ヶ島に到着するや否や、姫は桃太郎を放置して、島の中央へと走り去っていった。 暫くして、置いてきぼりの桃太郎がやっと追い付いたそこは、姫を中心にして、鬼共の死屍累々、血の海と化していた。 姫の視線の先には、どうやらラスボスと思しき、巨大な鬼が一体。ただし満身創痍。 「姫、せめてここは主役の僕に出番を…」 無視。 姫はその細腕で鬼の巨体を放り投げ、地面が割れるほどに叩きつけた。
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姫が倒した大鬼を丸焼きにして平らげると、体に変化があらわれた。 鬼の血肉を取り込み鬼人と化したのだ。 鬼姫の暴走がおさまったのは八日目の明け方だった。 桃太郎以外の者はみな死んでしまった。 彼に流れる桃の血が鬼人化を鎮めたのだ。 こうして完全にサブキャラとなった桃太郎は姫の鬼人化を防ぐため連れて帰ってきたという。 この話を聞いたおじいさんとおばあさんはあまりのショックで他界してしまいましたとさ。
- 完 -