novelnove

僕らは

どうしてだ。なぜそんな事を言う。
ありのままでいい、弱くたっていい、頑張らなくていい。今の此の世は…ゆとり…。

人が生きてく為に、頑張りたい。
大切なものを守る為に、強く生きたい。
自分の殻を破って、一歩を踏み出したい。
大切な事。
世の風潮だと、人間の良い所、成長を止めるって事なんじゃないのかな。

一生懸命行きてる人は輝いてる。

僕もそんな生き方がしたかった。
そんなある日、僕は出会った。

YSC
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彼は所謂三冠というものを達成したのだった。

卓球の地区準優勝。
税金の作文奨励賞。
絵画コンクール特別賞。

賞状授与式の時にそれが明かされた。
実際、どれも微妙とも思えたが、賞状には間違いない。

彼は勉強は出来なかった。難聴の障害をもっているのだ。先生の話さえ聞こえない。

ハンデ。
心が無ず痒くなる。
ゆとり。
本当に今はそういう時代なのだろうか。

aoto
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僕達は同学年だったから、「ハンデを抱えながら頑張ってる人がいる」ということは知っていた。あの「三冠」の話を聞いて、初めて名前と具体的な努力の内訳を知った。
彼は福丸君というらしい。

以来、僕の中で彼への興味が高まっていた。

努力を積み重ねる一生懸命な生き方。困難を乗り越えて高みを目指す姿勢。

僕が憧れながらも、実践できずに燻っているもの。

そしてこの春。進級した僕達は同じクラスになった。

Face
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やはり、最初のホームルームで担任は挨拶の後すぐに彼の話題に触れた。

「福丸君は耳にハンデを抱えながらも一生懸命あらゆることに取り組んでいます。みんなも見習って何事も一生懸命取り組んで下さいね」

そういった話を福丸君本人の前でするのはどうなのか、とも思ったが、本人はそれも聞こえていない様子であっけらかんとしている。

彼の横には介助の女性がついていたが、先程の担任の言葉を彼に伝えはしなかった。

starter
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休み時間、福丸君は何人かの生徒に囲まれていた。
「すごいね福丸君」
「あんなにいろんな賞もらえるって、難しいよなぁ」
今度は介助の女性はきちんと手話で彼に伝えていた。しかし福丸君はふるふると小さく顔を横に振った。
机の上のスケッチブックにサラサラと書いていく。
『すごくない。僕はがんばるしか、できないから』

──その頑張ることができない人間が、多いことを彼は知らないのだ。
僕の心がまた燻った。

いのり
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そんな彼を遠目で見ながらも本人と接する事は無かった。
あの事件が起こるまでは...

彼は勉強も勿論出来た。授業中に分からなかった事を周りの人や先生に聞いたりするのはよく見る光景となっている。
そんな彼を凄いと思うと同時に憎らしいと思う人も居ない事は無かった。

そしてそれは起きた。彼の教科書が無くなったのだ。無くなったと言っても直ぐに見つかった。
ビリビリに引き裂かれた姿で...

波瑠
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「これ、は。」
最初に発見したのは僕だった。

3-2 福丸 悠太

意図的に残したのか、たまたま残ったのか、教科書の名前の部分から、彼のものと分かった。

「福丸くんの教科書の件ですが、誰がやったんですか?手を挙げなさい。」

やっぱり、というか、そんなこと聞いたって誰が正直に答えるのか、とも思ったが、担任は教壇で声を張り上げた。

『教科書見つけてくれたの、君ね、ありがとう。』

ふと

ayasa
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初めて目が合って、ひとつ思い至る。

『君が職員室で再テスト頼んでるのを、見たんだ』
授業を諦めていた彼が形振り構わずやってみることにした云々、水彩画の上に綴られた。僕は、面談のお知らせを裏紙にし返事をする。
『じゃあ先生の弁当横取りしたのも見たろ』
彼は、手を横に振り笑った。響かない言葉は聴こえない、心から思う言葉なら煩い位わかる。世間はさておき、僕にとってのゆとりは強さでいいんだ。決めた。

サンディー夕朗
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それから僕らは友達になった。
共に笑って、共に学び、そして夢を語るようになった。

僕たちは世間に出たらゆとりと呼ばれるだろう。一つの世代を指す言葉としてあらゆる場面で聞くかもしれない。
それでも僕らはまとめられるほど適当に生きてるわけじゃないんだ。誰かとの出会いで変われることだってある。それはきっとどの世代でも。

『君の夢は?』
『強くなること!』

僕は輝く人間に近づけただろうか。

Face U30
- 完 -