私は青になりたかった

全てが青に染まってる。 青い魚たちは泳ぎ、泳ぐ。 その速度は早さを忘れて ただ優雅に、私と共に そこには青白い雲が浮かび 暖かな陽射しがさすの 暇なんて退屈な言葉は 存在しない 理由もなく真実だけが 私と一緒に遊泳している 珍しい、果物。 プールの底にひっそりと 水に身を寄せる 青い林檎がある

うろこ

13年前

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「なぜ、そうしてるの?」 ふいに青い林檎がたゆたう私にそう告げる 「理由はないわ」 「何故?」 「あなたはどうしてそこにいるの?」 「理由はないよ」 「「だって」」 「世界が青いんだもの」 「世界が青いんだから」 同時に同じ言葉を言った 「じゃあ探すのは無意味ね」 「そうだね」 さようなら、と言い遊泳に戻る 水底に 世にも見事な青い真珠を内に秘めた、青い二枚貝がある

Mia

13年前

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青に優しく受けとめられて 青に揉まれて洗練されて 陽射しは純粋な光となり 自由に煌き遊んでいる 貝の周りで遊んでいる 私を誘ってハミングする 嬉しい 安らかにそう感じる ここの全ては真実 本当の気持ち 光と貝と私のハミングは 水に溶け広がり 広がり流れて 青となる その青とも戯れながら 私は遊泳を続ける 珍しい、動物 プールの底にゆったりと 水に絵を描く 青い熊がいる

Pachakasha

12年前

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なにを描いているの? 青い熊の絵描きの周りを たゆたいながら尋ねてみる 青い水に 青い絵具で 青い空気を 描いているのだよ それでは見えないわ 私はもう一度ゆっくりと絵描きの周りを巡る 青の時代なのだよ わたしは若い わたしの青は哀愁なのだよ 青にも色々あるのね 私は絵描きの青い鼻にキスをした 青い熊が青い涙を青い水中に浮かべた 涙ぷかぷか 泳ぐように飛んできた青い鳥が 青い涙を啄んだ

真月乃

12年前

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描かれた空気が重なり合って、生き物たちの体が軽くなる 青い風に包まれた、幸福を運ぶ鳥はパレードを告げる 青い微粒子が気泡を抱え、音楽の鳴る流れにのった あの歌はこの海のために あの歌は愛の調和を保つ 青の音符が陽気に口ずさめば、幸運の導の元に仲間たちが後を続く 鳥の呼び声は、海を呼吸一つ分上昇させる 風が踊る 気泡が弾ける 差し込む光が照らすのは、青い珊瑚の硬質な楽器たち

aoto

12年前

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楽器が歌う青の旋律 それは波、それは海 それはチェロ、それはピアノ プールは海を閉じ込めて 海はプールを包み込む 五線譜をくぐりぬけ 私はたゆたう 歌えば立ち上る気泡はリズム 人魚がさざめくアルペジオ 終止符は大きな波のうねり はるかな海の夢を見た 夢はさらに深くへもぐって 第二楽章を奏でるだろう 珍しい、無機物 プールの底、無造作に転がる ガラスの小瓶がある そのなかに、水薬がある

lalalacco

12年前

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水薬は透き通った青色 向こう側がよく見えるけれど、もしかしたらこの水薬は透明なのかもね 蓋をされた中で揺れる水薬はまるで小さな海のよう きっとこの中にも青い者たちが優雅に遊泳してるに違いない 蓋を開ければ小さな青は大きな青へと溶け込んで、深みを増したこの青の世界 ゆらりゆらりと青色の便箋が私の手に舞い降りた

ハイリ

12年前

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その表面は青だ いや、青の世界に存在する青なんて、元の世界の空気のようなものだ なんておかしいの 私は笑った 私の笑い声さえもが、青だった 便箋の封を開ける すると中から、光が矢のごとく当たり一面に飛び散った 青の表情が変わった さっきまでは深い隠された青だったのに さっきまでは鳥が幸福を運んでいたのに さっきまでは全てが真実だったのに 光が、すべてを照らしたのだ すべてを。

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便箋には一言、こう書いてあった 「青い夢は、もうおしまい」 そうして私は、真っ黒い光に包まれた 頭がクラクラする 身体が気だるい 気がつくと、そこは私の部屋 現実の世界 部屋の中をくるりと見渡す 窓の外からは、赤黒い夕陽が入ってくる 壁際にある小さな水槽の中の青い2匹の魚が 私をジッと見つめながら 笑うように、プカプカと浮いていた 私も笑った 笑った私の声はもう、青ではなかった。

kano

12年前

- 完 -