私は青になりたかった
全てが青に染まってる。
青い魚たちは泳ぎ、泳ぐ。
その速度は早さを忘れて
ただ優雅に、私と共に
そこには青白い雲が浮かび
暖かな陽射しがさすの
暇なんて退屈な言葉は
存在しない
理由もなく真実だけが
私と一緒に遊泳している
珍しい、果物。
プールの底にひっそりと
水に身を寄せる
青い林檎がある
- 1 -
「なぜ、そうしてるの?」
ふいに青い林檎がたゆたう私にそう告げる
「理由はないわ」
「何故?」
「あなたはどうしてそこにいるの?」
「理由はないよ」
「「だって」」
「世界が青いんだもの」
「世界が青いんだから」
同時に同じ言葉を言った
「じゃあ探すのは無意味ね」
「そうだね」
さようなら、と言い遊泳に戻る
水底に
世にも見事な青い真珠を内に秘めた、青い二枚貝がある
- 2 -
青に優しく受けとめられて
青に揉まれて洗練されて
陽射しは純粋な光となり
自由に煌き遊んでいる
貝の周りで遊んでいる
私を誘ってハミングする
嬉しい
安らかにそう感じる
ここの全ては真実
本当の気持ち
光と貝と私のハミングは
水に溶け広がり
広がり流れて
青となる
その青とも戯れながら
私は遊泳を続ける
珍しい、動物
プールの底にゆったりと
水に絵を描く
青い熊がいる
- 3 -
なにを描いているの?
青い熊の絵描きの周りを
たゆたいながら尋ねてみる
青い水に
青い絵具で
青い空気を
描いているのだよ
それでは見えないわ
私はもう一度ゆっくりと絵描きの周りを巡る
青の時代なのだよ
わたしは若い
わたしの青は哀愁なのだよ
青にも色々あるのね
私は絵描きの青い鼻にキスをした
青い熊が青い涙を青い水中に浮かべた
涙ぷかぷか
泳ぐように飛んできた青い鳥が
青い涙を啄んだ
- 4 -
描かれた空気が重なり合って、生き物たちの体が軽くなる
青い風に包まれた、幸福を運ぶ鳥はパレードを告げる
青い微粒子が気泡を抱え、音楽の鳴る流れにのった
あの歌はこの海のために
あの歌は愛の調和を保つ
青の音符が陽気に口ずさめば、幸運の導の元に仲間たちが後を続く
鳥の呼び声は、海を呼吸一つ分上昇させる
風が踊る
気泡が弾ける
差し込む光が照らすのは、青い珊瑚の硬質な楽器たち
- 5 -
楽器が歌う青の旋律
それは波、それは海
それはチェロ、それはピアノ
プールは海を閉じ込めて
海はプールを包み込む
五線譜をくぐりぬけ
私はたゆたう
歌えば立ち上る気泡はリズム
人魚がさざめくアルペジオ
終止符は大きな波のうねり
はるかな海の夢を見た
夢はさらに深くへもぐって
第二楽章を奏でるだろう
珍しい、無機物
プールの底、無造作に転がる
ガラスの小瓶がある
そのなかに、水薬がある
- 6 -
水薬は透き通った青色
向こう側がよく見えるけれど、もしかしたらこの水薬は透明なのかもね
蓋をされた中で揺れる水薬はまるで小さな海のよう
きっとこの中にも青い者たちが優雅に遊泳してるに違いない
蓋を開ければ小さな青は大きな青へと溶け込んで、深みを増したこの青の世界
ゆらりゆらりと青色の便箋が私の手に舞い降りた
- 7 -
その表面は青だ
いや、青の世界に存在する青なんて、元の世界の空気のようなものだ
なんておかしいの
私は笑った
私の笑い声さえもが、青だった
便箋の封を開ける
すると中から、光が矢のごとく当たり一面に飛び散った
青の表情が変わった
さっきまでは深い隠された青だったのに
さっきまでは鳥が幸福を運んでいたのに
さっきまでは全てが真実だったのに
光が、すべてを照らしたのだ
すべてを。
- 8 -
便箋には一言、こう書いてあった
「青い夢は、もうおしまい」
そうして私は、真っ黒い光に包まれた
頭がクラクラする
身体が気だるい
気がつくと、そこは私の部屋
現実の世界
部屋の中をくるりと見渡す
窓の外からは、赤黒い夕陽が入ってくる
壁際にある小さな水槽の中の青い2匹の魚が
私をジッと見つめながら
笑うように、プカプカと浮いていた
私も笑った
笑った私の声はもう、青ではなかった。
- 完 -
作品情報
私は青になりたかった
#1865
- リレー期間
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9ヶ月