むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが居ました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に。おばあさんが川で洗濯をしていると、どんぶらこ〜どんぶらこと大きな桃が流れて来ました。恐怖に苛まれたおばあさんは見て見ぬ振りをし、そのまま桃は滝の方へと流されて行きました。 そして、15年の月日が経ちました。 平和だった村は鬼達に支配をされ『鬼神村』という名前に変わっています。
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毎年一人、この村の人間を生贄に差し出してくるよう鬼達は命令しました。生贄は鬼に喰われます。しかし生贄を出さなかったら村が滅ぼされてしまうのです。 村の掟により、ついに、次の生贄はおばあさんの番になりました。鬼達の元へ行かなければいけない期限はいよいよ明日に迫っています。おじいさんは考え抜いた挙句、ひとつの噂に希望を託すことにしました。 その噂とは、"滝にひとりの勇者が住んでいる"というものです。
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おじいさんは山を越え川を越え、噂の滝へとやって来ました。滝壺の奥に洞穴を見つけたおじいさんは中に入ってみました。 洞穴の中では、薄汚れた着物を纏った少年が、猪の肉を頬張っていました。 傍らに転がる巨大な猪の死骸を見たおじいさんは、彼こそが勇者だと思いました。 「御免、おぬしが噂の勇者殿じゃな?」 少年は鋭い眼光をおじいさんに向けて、こう答えました。 「俺は、俺が何者か知らぬ」
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おじいさんは言いました。 「お前は滝から産まれた滝太郎に違いない。どうかばあさんやワシたちの村を救っておくれ!」 滝太郎は言いました。 「やなこった!なんで見ず知らずのお前さん達を助けにゃならんのだ」 おじいさんはそんなこともあろうかと、きび団子を用意していました。 「ほらコレをやるから頼むっ」 「なんだコレ?こんなんで命張れるか」 滝太郎はそう言ってきび団子を全て食べてしまいました。
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「ふふふ!かかったな」 お爺さんはニヤリと笑うと懐から小さな小瓶を取り出しました。 「今、お前さんが食べた団子には実は毒が盛ってある。猶予は24時間。24時間以内に鬼を退治し、婆様を助けてくれれば、この解毒剤をやろう。そうすればお前さんは助かる。」 滝太郎は考えました。 実はこの滝太郎。喧嘩では一度も勝ったことがありません。 ただのビビリの少年でした。 こっ、怖い! でも毒はいや! もう泣きそう。
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「お、鬼を倒せばいいのだな」 葛藤の末、滝太郎は腹を括って立ち上がりました。 それを見たお爺さんは大いに喜んで、滝太郎に村の場所を教えて帰って行きました。 暫くして、滝太郎も村に向かうことにしました。正直、鬼に勝てる気なんてまったくしませんでしたが。 足取り重く進んでいると、道の向こうから誰かがやってくるのが見えました。 鬼です。まさかの鬼でした。 鬼がこちらに向ってきます。
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その姿たるや想像以上の恐ろしさでした。 退治なんてとても無理です。滝太郎は慌てて逃げましたが忽ち鬼に捕まりました。 何で自分がこんな目に、と滝太郎は殆ど半泣きでした。 それも、人に毒を盛るような悪どい爺さんの連れ合いのために── そうだ、毒だ。不意に閃き、滝太郎は叫びました。 「俺を食べたらお前も死ぬぞ。俺は毒を飲まされてるんだからな!」 しかし、果たして人の毒は鬼にも通用するのでしょうか。
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鬼は毒など微塵も怖くありませんでした。 「お前は何故毒を飲まされている」 鬼は静かな威厳のある声で聞きました。 滝太郎は事の次第を細かく鬼に説明しました。 話を聞き、鬼は国へ帰って行きました。 遠くで鬼が帰って行くのを見ていたお爺さんは、滝太郎が鬼を懲らしめたのだと思い、大喜びで解毒剤を渡しました。 「次の生贄はあの老いぼれにしよう…」 鬼が、静かな威厳のある声で呟いていました。
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滝太郎はペットの犬と腹を抱えて 笑い転げました 『鬼じっせ〜マジちょれ〜んだけど〜。 ジジィ、オレッチ超ツェーとか思ってるとかウケる〜。っつか、あの吉備団子パネくね? っつか毒盛るとかサイコぢゃね? ジジィムショに入って貰っちゃて〜 助けたババァに一生かけて慰謝料払わせて オレッチ高等遊民として暮らすわ〜』 これにはキジも猿も頷きました。 【因果応報】良い子の皆! 四文字熟語!覚えたかな?
- 完 -