吸血鬼だって恋がしたい。 「貴方なら夜に美女の寝室で血吸ってOKじゃないですか」 「おい今恋っつっただろが」 「tkmkが欲しいのならこんな所で油売ってないで人里に降りるべきですよ」 暗い森の洋館。テラスに腰掛ける美青年は、空に浮かぶ狐尾の人物を睨む。金髪碧眼と、黒髪黒目の相反する容姿が、性格を表しているように。 九尾と吸血鬼。 全く接点のない人外2匹は、今日もまた口論を繰り広げる。

コノハ

11年前

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「ぶっちゃけ吸血鬼の女は皆、気丈でプライドが高過ぎる」 「でも美女だらけでしょ?」 「逆に美女しかいねーんだよ。男もそうだが、人間を引っ掛けやすくする為に、俺達は遺伝子レベルで容姿が整ってんだよ全員」 嫌味にしか聞こえない情報だが、それ故に吸血鬼は同族同士の恋が実り辛いと言われている。 完全な性格重視。だからこそ、人外でも心を開いてくれる稀有な人間がいた場合、速攻で恋に落ちてしまうらしい。

nameless

11年前

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「あー、どこかで心清らか純粋で優しい瞳を持った少女が窓の枠に立って、青い月を眺めながら小さくため息をついてないかなあ」 「……性格重視って言ってた割りには要望が多いですね、貴方」 「だってどうせ恋をするならロマンティックで刺激的な恋をしたいじゃないか」 風が吹いて、二人の金と黒の髪を揺らした。九尾が乱れた髪を直しつつ、口を開いた。 「でも、私、貴方の理想の女の子を知っていますよ」

Ringa

10年前

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「ヤマトミ村にある病院。そこで入院中の女の子なんか、ぴったりだと思いますがね」 九尾は目を細め、ささやいた。 「ふーん? 聞いたことないし。その村、どこにあるんだ?」 「興味あるなら、案内しますよ」 「え!? 今から行くのか? ちょ、こ、心の準備が!」 オロオロしだす吸血鬼に、九尾はあきれた。 「貴方、人間に会うの何年ぶりなんです?」

すくな

10年前

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「……………」 一種固まった吸血鬼は、九尾にくるりと背を向けた。その背中から「ひー、ふー、みー…」と声が聞こえる。 「で、どうでした?」 声が止まった頃、九尾は声をかけた。 「…………まあ、大体…200年ぐらい、かな…」 「……………」 どうやら2世紀ほど会ってなかったらしい。 「しょうがない、では私が人間の間で流行っているものを教えてあげますよ」

夏うさぎ

10年前

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九尾は自分の知る人間界での流行りを伝えた。 「なるほど。それでいこう」 吸血鬼は、まるで今し方血を吸ったばかりのように顔を輝かせた。 「人間の言葉で言うと、水を得た魚のようというやつですね」 そして、吸血鬼は漆黒の翼を羽ばたかせて、宵闇へ消えていった。 はぁ、もういっそどこかに飛んでいけたらいいのに。 病院の窓辺から、いつものように青い月の浮かぶ外を眺めていると、視界の端に影が映った。

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「今晩は、お嬢さん。綺麗な月ですね」 貴女の血を頂きに来ました、とキザに礼をする予定だったが、 「ナースコール押されますよ」 後ろにいたハンからチョップを食らう。 「ま、待って。怪しい者ではない。少し君の血を」 おたおたする吸血鬼。しばらく人間に会わないうちに、コミュ力も落ちたらしい。 「吸血鬼でしょ?でも私は病気の血だから無理だよ」 「重症なの?」 「明日にでも死ぬの」 「そう、なんだ」

ゆりあ

8年前

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