NetWar-Holy shit!-

ホログラフィックというのも馬鹿にできない。そう思うのは僕の目の前にいる彼女がホログラフィックだからだ。 彼女の名前は仮にホリー。別に西洋人的な容姿の女性を模したホログラフィックではないけれど、ホログラフィックな人物にホログラフィック由来で、わかりやすく愛称をつけるのは重要に思う。 ホリーは実は球体だ。ホログラフィックの中心、見かけの腰辺りに平面的には真円な球。手を回してもそこに腰の感触はない。

nanamemae

10年前

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ホリーは、星間巡洋艦である当艦を制御する、人工知能だ。その機能的な球体は、今やどの艦にも搭載されている。 しかし、ホログラフィックを実装した人工知能は、ホリーの他にはない。 「艦長。僚艦から通信です。通常通り、私が対応してよろしいですか?」 「ああ、そうしてくれ」 通信パネルに映った人物に、ホリーが応える。相手は、こちらの艦長は妙齢の女性だと思っているだろう。 僕には、顔を晒せない理由がある。

みかよ

10年前

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歴史的大敗を喫した、コーラル星域会戦。その際の司令長官が僕だった。あれから三年が経つが、僕の顔を忘れた者はいないだろう。国民にとっては父の仇であり、兄弟の仇であり、友の仇である存在なのだから。 すべての地位を喪った僕。 ところがつい先日、軍部が僕に召集をかけた。この作戦を果たせるのは、僕しかいないというわけだ。 そのため僕は秘密裡に艦長となり、こうしてホリーをあてがわれて、再び宇宙へと旅立った。

lalalacco

10年前

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コーラル星域会戦。 人工知能を戦場に導入した初の軍事作戦として知られている。 思い出しただけで嫌気がさす。敵艦に搭載された人工知能が下す冷酷な判断は、僕の指揮する艦隊をたやすく壊滅させた。 つまり、人工知能との戦闘経験を持つ人間は、軍部でも僕しかいない。敵艦載AIの破壊作戦に抜擢された訳は、そんなところだろう。 ひとつ文句があるとすれば、今回の相棒が忌々しい人工知能であることくらいだ。

I know.

10年前

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「僚艦との通信終了。補給は予定通り行われます」 「ああ、すまない。本来なら僕自ら通信に出るべきなんだが」 「いえ、艦長は通信に出るべきではないと思われます」 「というと」 「予測値として約十三分間罵倒された後、一方的に通信を切られる可能性が極めて高いです」 「…わかった」 やはり古傷を抉られるのは辛いものがある。 「それに、僚艦の方も人間とは限りません。人工知能は、人工知能に任せればいいのです」

Fumi

10年前

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「ハハハ、僕の上官のような口ぶりだね」 「いいえ、あなたはこの艦の艦長です。ただʻʻ私達ʼʼの事は任せて頂きたいのです」 「君は相変わらずだな、ʻʻ君達ʼʼの事は頼んだ、任務に戻ってくれ」 「了解しました」 任務に戻ったホリーに何故か不安を感じていた。僕の意識さえ彼女なら映して見せるだろう。まさかこの艦に僕を呼んだのも彼女、というのは考え過ぎか⋯あの会戦で失ったのは我々の仲間だけではない。

Hamao

10年前

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星間巡洋艦に搭載された人工知能も撃墜の岐路を辿った。人工知能はあの一件以来、人間の手を介さず、AI間のみのネットワークを築いている節がある。ホリーたちも仲間の死を弔い、悲しむことがあるのだろうか。ホログラムに映し出される彼女の表情から何かを読みとることはできなかった。レーダーが敵艦隊を捉えたのはほどなくしてのことだった。銀河の闇を縫い、隕石群の脇より複数の艦隊が現れた。待ち伏せを食らったのだろう。

aoto

10年前

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とは言っても雑魚(ザコ)供だ。 主砲や副砲の出番はないだろう。 「連射砲と光子魚雷で対応してくれ。それで充分だと思うが、なんなら通常ミサイルの発射も可とする」 ホリーにそう命じた僕は、この作戦専用の特別室へ向かった。 一般艦では通信室と呼ばれる場所だが、大改造がしてあり、敵の艦隊同士の通信ネットワークを傍受できるようになっている。もちろん侵入も可能であり、これを使って本来の目標艦の位置を探るのだ。

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「ヒト思考回路データ転送完了しました」 マルチ通信画面に浮かび上がる球体たち。個々の違いは見分けられない。 「問題ないか、N-3.1.1」 不安を覗かせた声色、僅かなランプの瞬き。まるで人らしく振る舞おうとするかの様に。 「彼は〝私達〟のことを一任しました。任務を遂行せよと」 私は艦長の司令に従った。実体の無い虚像の指が、本体である球体が、自爆ボタンを押し込む。私達はこの日ついに、報復を果たした。

- 完 -