腐敗

「みかんちゃーん」 「おい、みかん」 クラスメイトは私の事をそう呼ぶ。 みかんって可愛いと思う? 違う、違う。 「みかん」の前には「腐った」が含まれてるの。 箱買いしたみかん箱の底の方には一つや二つ青カビの生えたみかんがある。 「こいつに触れると自分まで腐るぞ」 そうなの、私は皆からいじめられてるの。 でも、知らんぷりして「はーい」なんてエヘラエヘラ笑って返事する。 今に見てろ、そう思う。

Noel

12年前

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美果って名前が初めて嫌いになった。 でも、いじめられてあげるのもおしまい。 摩耶、私はあんたを許さない。 摩耶は私がいじめられる前のターゲットだった。気が強くてわがままだったことから女子グループからハブられ、次第に皆無視するようになった。 そんな摩耶はクラスで一番目立たない私に声を掛けて一緒に過ごすようになった。 しかし、ある日摩耶は私を裏切った。

Aqua*

12年前

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「美果は竹崎くんに桜の悪口言ってるのよ」 桜は私をいじめている中心人物、竹崎くんはクラスの人気者。つまり、白い目が一瞬にして私に向けられたわけ。 摩耶はなんの警戒もせずにトイレに入っていく。私は用意しておいたバケツの水を扉の向こうにぶっかけた。 摩耶はキャアッと高い声を上げたが、私は怯えた声を出した。 「ねぇ…桜…これで許してくれるんだよね?」 こんなもんかな。 私は静かにトイレを出た。

yuta

12年前

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ずぶ濡れになって教室に戻ってきた摩耶を見て、桜は首を傾げている。摩耶は私と桜にキツい視線を送ってきたけれど、それ以上何も言わなかった。 授業が始まり、私は次の手段を考える。 摩耶は桜に問いただすだろう。桜と摩耶は関係が悪くなるはずだ。 摩耶は私に何かをやり返しに来るだろうか? 摩耶に復讐するだけじゃ足りない。 桜にも、このクラスの皆にも、思い知らせてやるよ。 腐ったみかんで、何が悪い。

11年前

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皆が帰った教室に、私はいる。 右手にはブランド物の口紅。桜が自慢していたものと同じやつだ。 確かに高かった。中学生がお小遣いで買うものではないだろう。 これを使って、クラスメイト一人一人の机に落書きをする。 桜はきっと、私じゃないと言うだろう。 皆も表面上では擁護し、彼女がするわけないと言い張る。 だが、一度芽生えた人への不信感は、そう簡単に消えるもんじゃない。 私が一番、よく知っている。

Fumi

11年前

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実際は予想以上だった。落書きは桜がしたものだと言い張ったのは、他でもない摩耶だった。 「私は見てたよ、摩耶が口紅持ってみんなの机に向かってたところ!」 「はあ? 嘘ばっかり! わたしは何もしてないから!」 クラスメイトはただただ傍観している。桜を擁護する人すらいなかった。次のターゲットは桜だろうね。そして気づけば、私をみかんなんて呼ぶ奴はいなくなった。 でもまだだ。クラスの全員に復讐するんだ……。

mani

11年前

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いや、さすがにそこまですると誰かが勘づくかもしれない。 桜と摩耶。あの二人を潰す。 「桜ちゃん、大丈夫?」 私は桜の味方をするふりをして、摩耶にいじめの助言を繰り返す。 日に日に増すいじめ。桜が学校に来なくなると不味いので、私がそれとなく桜を支える。 そろそろだ。 私は担任に摩耶の告発を行った。 摩耶は私を巻き添えにしようとしたが、桜が庇った。 次は自分の番とも知らずに。

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何にも知らずに、偽善者ぶって。 あぁ、可哀想に、 なんて思う私はもう、"腐って"しまったのだろうか。 本当に腐った性根を持つ美果になってしまったのかな。 でも、もういいかもしれない。 腐りきった美果になっても。 腐ったものはやがて消えてゆく。 腐敗して、跡形もなく。 だから、何か残しておこう。ここに美果がいたっていう証拠を。 心の中に…

波"弥

9年前

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あれから一月。まるで当然のように行われていた"いじめ"は、ぴたりと止んでいた。 「おはよう、美果!」 美果、美果、美果。もう誰もみかんとは呼ばない。 私はずっと、かつて摩耶と桜に行った様に、誰かの味方で敵でいた。罪には罰が必要だもの。 -なんて気分がいいんだろう!- もう誰も、私のことを忘れない。腐っていた皆を、私が救ったんだ。 「最近、アイツ調子乗ってない?」 誰かが、ぼやいた。

torino

9年前

- 完 -