ミッドナイト ピーナッツパン

"ピーナッツパンが食べたい" 突然の衝動である。 今思えばそれが始まりだったのだ。

レントン

13年前

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夜中。ピーナッツパンが急激に食べたくなった。 ほら、たまにあるだろ?何故か深夜に限ってどうしようもなくラーメンとかおにぎりとかが食べたくなる時って。 そういうわけで、僕はピーナッツパンが無性に食べたくなってしまった。こんな時間に開いてる店といえばコンビニだが、ピーナッツパンなんて置いてあるだろうか。 「いらっしゃいませー」 店員の気だるそうな挨拶を通り越し、目当てのパンコーナーに向かう。

nonama

13年前

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さすがに深夜なだけあって品揃えは乏しいかったが、心の中で密かにあることを祈りながら見渡してみた。 (..あった!!) 俺はすぐに真っ白なパンの上にピーナッツの絵が焼印されてあるそれを手に取り、そのお供にと缶コーヒーも一つ持ってご機嫌にレジへ向かった。 「お会計320円になりまーす。」 帰ったら録っておいた洋画でも観ながら食べようかー、なんて考えながらポケットに手を突っ込んだ。

shamrock

13年前

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空を見上げて、月が綺麗だ、なんて月並みなことを考えながら歩いていると、自分が漫画やゲームの主人公になった気がして心が弾んでしまう。 言っておくが俺は断じて中二病などという奇病患者ではない。現実と妄想の境目が曖昧になったりなどしていない…が。 「くっ、ピーナッツパワーが足りない…このままでは妖精界から追放されてしまう」 俺の持っているコンビニ袋に執拗なまでに視線をくれる妖精が、目の前に現れた。

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「え、なに、くれって? 」 「うんくれ。俺っち妖精だし」 「まだ一個あったよ買いな。急激にピーナッツパンを求める人に取られるよ」 「金ないし。俺っち妖精だし」 「 えっ!金ないの!」 「 驚くのそこ?!俺っち現れた時点だろ」 「そか。まあ買ってやるか、コンビニ行こう」 そしてまたコンビニ「ラッシャッセー!」 威勢のいい店員はセー!の口で固まった。俺の頭上に目が釘付けだった。 あ、見えてる?

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どう考えても不審なタイミングで店員から目を逸らしつつ、パンコーナーへ向かう。 「お前さ、『俺だけにしか見えない!?』的な系統のやつじゃないのかよ」 「これだから中二病こじらせてる奴って困るよね…」 「架空生物に言われたくねーよ」 ヒソヒソと話しながらさっきあった辺りの位置を探す、が。 「あ、ピーナッツパンないじゃん」 「なっ…!?」 「あー残念だな、ほら」 商品名のタグだけが空の棚に並んでいた。

紅秋.

12年前

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「参ったな…」 妖精は心底困った様子で頭を抱えた。 「…その、ピーナッツパワーが足りないとか言ってたな、確か」 「あぁ、ピーナッツパンだけが持つピーナッツパワーだ」 「ピーナッツを使ったお菓子とか、ピーナッツそのものではダメなのか?」 「いや、ピーナッツパンじゃないとダメなんだ」 仕方ないので、食パンとピーナッツバターを買ってコンビニを出た。 「ちょっと家に来い。ピーナッツパンを作ってやる」

minami

12年前

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「えっ、いやそのピーナッツパンくれるだけでいいじゃ」 「嫌だ」 俺はきっぱり断る 「これは、俺のピーナッツパンだ」 「・・・。」 俺は颯爽と微妙な空気を出している店員に会計を頼む。 頭に妖精を乗っけたまま自宅に帰った俺は、妖精の為にピーナッツパンを作り始める。と、いってもただ食パンにピーナッツバターをつけるだけなのだが 「ほら、出来たぞ」

にらたま

12年前

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妖精は俺と一緒にいただきますをしてから小さな体でピーナッツパンにカブりついた。 「ひ~なつまた~が歯にひっくいた」小さな指を口に突っ込みチュパチュパする妖精がちょっと滑稽で可愛い。 「たっぷり塗ってやったからな」 「ほぅか、ほまへ、いいやつ。ありがとう」そう言ってニコと笑い妖精は姿を消した。 「明日は…苺ジャムにするか」 洋画を再生する。シンデレラ城のロゴマークの後、妖精がキラキラと舞っていた。

真月乃

12年前

- 完 -