化けでる深夜のコンビニ

夜は嫌いではない。 寝る時だって真っ暗の方がいい。 ある一点を見つめて考えにふけることもしばしば。気がつくと夜中の1時。深夜の時間の流れは本当に早い。 眠れずに僕は近くのコンビニへと足を運ぶ。 明日学校がなかったら天国なのにな。 人間が作り上げたルールは本当に堅苦しい。

noname

12年前

- 1 -

部屋着にジャケット一枚では流石に寒い。裸足にサンダルと言うのはこの季節、やめるべきだったかもな。街灯の下で近所の茶トラが知らない黒猫に吼えられている。猫も吼えるのか。 角を曲がればコンビニが見える。 あれ? 真っ暗だぞ…… 本来なら道の先、コンビニの明かりがこうこうとして安心感を与えるはずなのだけれど。等間隔の街灯が弱々しく青白い光を落としているだけだ。 それでも先に進む。

- 2 -

優にコンビニまでの距離を超えた。 僕を挟むように立ち並ぶ灰色の石塀がやけに高く感じて立ち止まる。そしてなんとはなしに空を見る。……いつもなら塀の上に見えるはずの月が見えなかった。 きっと僕は道を間違えたんだろう。 僕は来た道を戻ろうとして後ろを振り向いて、目を見張った。 道の先にコンビニのこうこうとした明かりがあった。

じゃん

12年前

- 3 -

おかしい、さっきまで歩いていた道なんだからコンビニがあれば気付くはずだ、という不審と、よかった、やっぱり道を間違えていたんだ、という安堵が入り混じる。とりあえず道の先に見えているコンビニに行こう。僕は踵を返した。 しばらく歩いて違和感に気付いた。歩いても歩いてもコンビニの明かりが近付いてこない。弱々しい街灯と閉塞感のある石塀の道から抜けられない。一定の距離を保ったままコンビニが僕から逃げるのだ。

lalalacco

12年前

- 4 -

僕は立ち止まって目を擦り頬をつねる 確かにそこにはコンビニが、ある でも辿り着くことはできない 一つ思い当たることがあって、僕は急にコンビニに向かって一目散に駆けた。また辿り着けなかったが、さっきよりもコンビニの手前まで行けた気がする ははぁん、そういうことか 僕は勝手に納得した じいちゃんが昔言っていた「化かし狐」 人を騙し遊ぶ妖怪みたいな狐の仕業 ふん、お前の思い通りにはならないぞ

- 5 -

じいちゃんが言ってたっけ、この手の狐の悪戯は、こっちが必死になればなる程に狐を喜ばせるだけ。 つまり、こっちが関心を示さなければ、狐はあれれ?遊ばないの?遊ぼうよと、逆に必死になってくるそうだ。 僕は再び踵を返し、コンビニの明かりを背にして歩いた。 相変わらず石塀はどこ迄も続く。僕は辛抱強く進んだ。きっと狐の奴は僕の行動に戸惑い焦っている頃だ。 そろそろか?いや、後数歩歩み…僕は唐突に振り返った。

真月乃

12年前

- 6 -

コンビニだった。 一定の距離を保っていたはずのコンビニが、先ほどと変わらぬ位置で明かりを放っている。 そういうことか。 種がわかったような気になって、再び背を向けた。その先にはコンビニがあった。方向を変え、目をつむって走り出す。 しかし、目の前に見えてくるのはコンビニだ。東西南北、どの方向にもコンビニが見える。 観察するかのように一定の距離を保ったまま、僕はコンビニに囲まれてしまっていた。

aoto

12年前

- 7 -

一体何故だ? 僕は多少焦りつつも、自分に冷静に、冷静に と言い聞かせ、真っ直ぐ歩き続けた。 段々怖くなりって僕はまた目をつぶり、 一心不乱に走った。 一体どれぐらい歩いただろうか… そう思い僕は目を開けた。 そこで僕は絶句した。 周りにコンビニどころか、光さえなく、 真っ暗だった。 僕は泣きながら走って走って走り続けた。 そして気づいた時、僕の地面の下に コンビニはあった。

- 8 -

これは…いったい… ーーゾクッ!! 急に異様な空気が僕の四方を囲む。 暗闇から、何かが、出て、きた。 「未成年者の深夜徘徊はいけないよ」 僕の意識はそこで途切れた。 目を覚ますと僕は部屋にいた。 あとで知ったことだけど昨晩、あのコンビニに強盗が押し入り、怪我人が出たそうだ。 暗闇から出てきた何か。化かし狐が僕を守ってくれたのかもしれない。 それ以来、深夜のコンビニへ行かなくなった。

cto

12年前

- 完 -