皆、トンネルってよく異界に繋がってるとか幽霊が出るって言いますよね? 私も友達と3人で行ったんですよ。 近所にある曰くつきのトンネルへ これはそんな私たちが体験した 不思議な体験談です。
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「この課題さ、あのトンネルなら楽勝だと思わねえ?」 そう言ったのはトノでした。手付かずで未踏の場所なら、苔が綺麗に採取できるだろうと。 「えー?あそこはだめだって。柵があるもの」 私は眉を寄せました。薄気味悪いのは苦手でしたから。 「あら、私は賛成よ。ポンは怖がりだものね、日曜の朝ならどう?」 提案の様で、ヒメが言えば決定事項。
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「うー…やっぱ帰ろぉ」 小さな弱音さえも、このトンネルの中では反響していました。 「もう入っちゃったって」 湿って暗いトンネルの中。私はというと、ヒメにくっついてばかり。 「もぉそこらへんの苔でいいじゃん…」 「どうせなら奥の取ろうぜ。思いっきり湿ってるやつ。」 トノは大のこだわり持ちでした。ヒメはヒメで楽しそうで、私も1人になりたくなくて結局ついて行くことにしたんです。
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最初はそうして皆で話しながら歩いていたのですが、奥に進むにつれ口数は減っていきました。 静かなトンネルの中、聞こえるのは足音だけ。壁に反響してまるで私達以外にも歩いている人がいるかの様に聞こえます。それがなんだか怖くって私はヒメにしがみつきました。 ヒメは大丈夫だというように私の頭を軽く撫でました。 本当はもう帰ろうと言いたかったのに。 結局、私達3人はそのまま進んでいきました。
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トンネルは、昭和30年代から閉鎖されている。改修工事の時に事故が立て続けに起こり、そのままになったとか。 そう言えばなぜ出入り口を封鎖してないんだろう。 「知ってる? ここ、防空壕にも使われてたんだって。トンネルの途中に抜け道もあって、昔、そこで女の子が悪戯されかけてその抜け道のおかげで助かったって」 ヒメがトノには聞こえないくらいの声で呟いたのです。でもその声色はいつものヒメじゃないようで。
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低く抑揚のない声だった。私は寒気を感じました。 「おーい!こっち」 先に歩いていたトノが手招きして私達を呼びました。 「行こう、ポン」 え、ヒメは何時ものヒメに戻っていました。さっき…不思議に思いましたけど、この暗闇のせい? 「何か横穴の様なものがあるぞ」 その穴の入り口は何枚かの板で塞がれていました。トノは一枚の板を外し持ってきた懐中電灯で中を照らして、 「結構深そうだな。どっかに続いてそう」
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そう言いながら覗いています。 ヒメと私は残りの板も外して、穴の入り口を全開にしました。 ひとりずつなら立ったままでも入って行けそうです。 「腹ばいにならずに済みそうね〜?」とヒメが言い「でも、並んでは歩けないようだよ?」とトノが言いました。私はじゃんけんを提案しました。 じゃんけんで決まった順に、ヒメ・私・トノと横穴を進んでゆきます。最初でも最後でもなくて私はホッとしていました。
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足元を生暖かい風が吹いていきます。 「やっぱどっかに繋がってんのかなあ」 緊張感のないトノの声が後ろから聞こえました。 「ポン、あんまりくっつくと歩きづらいわ」 ヒメはそう言いましたが、私は必死です。 懐中電灯一本で照らされる横穴は、さっきとは比べ物にならないぐらい暗くて狭くて。 「え!?」 そんな時、誰からともなく声が上がりました。 プツンと、奇妙な音とともに世界に闇が訪れました。
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電池切れです。 途端に狭いトンネルが無限の闇に包まれるように思えました。 私は怖くて声も出せません。 「こっちよ。手を繋いで」 抑揚のない声と冷たい手に、導かれていきました。 途中、うすぼんやりと光る苔を見たような気もします。 最初にトンネルを抜けたのは私でした。次にヒメ、トノ。 いつ順番が入れ替わったのか、私の手を導いたのは誰だったのか? それはまったくわからないのでした。
- 完 -