あははは!

ザ・サーカス ~前回までのあらすじ 「町にサーカスが来るよ!」 この言葉が私の幸せな生活に暗雲をもたらします。かつて幼かった私を拐かし、地獄のような研修で苦しめた、アーウィンサーカス団がこの町にやって来ました。 その過去を知らない夫と娘は、サーカスを見に行くと言うのです。私は愛する家族を守るため同行しました。 そして興行の最後。観客を参加させる出し物で団長が指名したのは、なんと私の娘でした。

saøto

12年前

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娘を守るんだ…。 私の頭はその事で一杯だった。 気が付くと、観衆から拍手が溢れた。 もう、何の演目かも覚えていない。 団長は私に気が付いていないのか? と、団長は娘の目に自分の目を映した。 「いや〜、実に素晴らしい‼ぜヒ私達の仲間ニ入ッてモらイタイモノダ…」 団長の目が一瞬光った。 「⁉」 「‼」 20年の時が過ぎ、私は忘れていた。 団長は猛獣使いだった事に…。 娘はその場で気絶した。

hyper

12年前

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しかしそれがわかっているのは私だけ。娘は意識を失っているが、ゆらりと席を立ち、ステージに向かおうとする。団長の思うままに。 「待って!!」 咄嗟のことに、私は思わず娘の手を掴んだ。あの時、私の手を母が掴んでいたらどうなったのだろう?けれどもたった十歳の娘は万力に引かれる様に私の手から逃れようと進んで行く。娘を挟んで座っている夫はどう言うわけかピクリとも動かない笑顔でステージに魅入っている。

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私は必死に娘の手を引き続けた! 「おやおや!これはこれはこれは!親御さんが娘さんの未来の妨げをしてはイケナイですな~」団長はギョロ目を炎の様に紅く輝かせ、ピシャッ!と大鞭で空中を斬った! その瞬間、私の身体は凍った様に動かせなくなった。 思い出した…あの時…私の母は…私の手を掴んでくれてた!母も団長の術中にあったんだ! そして、あの日、母が体験した様に、娘の手はスルリと私から離れて行った…。

真月乃

12年前

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「さあ! 皆様方、ここに生まれし小さなスターに惜しみない拍手を! 喝采を! ご祝儀を! ハハッ! それでは演目を心いくまで堪能して下さい。彼女はあなたを魅了し、夢幻の彼方へと導いてくれることでしょう!」 娘は黄色いチョッキを着せられ、ピエロから帽子を受け取る。 団長の鞭がスピーカーから流れる音楽に合わせてリズムを取る。 演目は炎の輪。成功と同時にファイヤーワークスがあがる仕組みになっている。

aoto

12年前

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フラフラ歩いて位置につく娘を、呆然と眺める。 そうだ、私も炎を無我夢中で飛び越え、不思議な心地よさと拍手に酔うようにサーカス一座に引き込まれてしまったのだ。 服でごまかした私の肌には、今も火傷の跡がたくさんある。 あの日、仲間をかえりみずに抜け出した罰のように。 娘が、火の輪に向かって走りだす。 私の母は20年前、同じ光景をどんな想いで見ていたのだろう。なぜ繰り返されるのか。 私はーー

12年前

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自分の頬をピシャリと叩いて術を解く。痛い。そんなの決まっている。 でもここで娘を止めなければもっと酷い痛みを体験することになる。 「待って!!!」 私は大声を張り上げた。娘は止まる。当然場内は静まり返る。夫も不思議そうに私を見る。 そんな中で団長だけが、睨む。 ガタガタと震え出す身体 ダイジョウブ。もう、怖くない。 私は今、このサーカス団の一員なんかじゃない! この子の、母親なの!

ハイリ

12年前

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カラフルな仕掛けから、8本のトーチを捥ぎ取った。昔と同じ仕掛けが私に味方した。 「今更ナ〜二かできルトで・モ?」 団長の汚らしい笑みがギラつく。 「忘れたの? 炎使いで名を馳せた私を!」 ボッと火の輪から炎を奪い、輝き盛るトーチをトワリングする。 乱れ舞う8つの炎で娘夫、観客を正気に戻した後、私はトーチを天に飛ばした。燃え出すテントで轟音が暴れる。 団長の好きな炎よ! 死ぬ迄味わえばいいわ!

Pachakasha

12年前

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「おい!やめてくれ!俺のサーカスが!」 ざまあみろ。私の記憶から永遠になくなってしまえ。 私が娘の手をひこうとした。時だった。 「ハハ…は、ハハは!ぎゃはハハ!あーははは!…バカめ!こういう時の為にちゃんと 防炎してるんだよ。」 炎はみるみる消えていく。 ああ…私は…勝てなかった… 猛獣が近寄ってくる。 ニタニタ笑う団長と団員。 「おかえリ。」

せなちゃ

12年前

- 完 -