ドーナツの行方

今日は絶対にオールドファッションドーナツを買おうと私は決めていた。 理由なんてない。なんとなく、だ。 無性にオールドファッションが食べたくなった。 それだけ。 仕事も定時で終わったし、ここまでのプロセスは順調極まりない。 あとは駅前のドーナツ屋さんでオールドファッションを買うだけだ。 それでミッション達成なのだ。 だが15分後 私は空のオールドファッションのトレーの前で絶望を感じていた。

minami

13年前

- 1 -

チョコファッションは、ある。 ストロベリーチョコファッションまであるのだ。 何故?! 何故オールドファッションだけ無い?! 私と言う人間は、頑固。とかく頑固で意地っ張り。故にチョコファッションでは己を納得させることができない。 確かにチョコがかかっているのは全体の半分、いや、それ以下かも知れない。かかっていない部分を食べさえすれば、最初のオールドファッション欲は満たされるだろう。

- 2 -

念のため店員に聞いてみた。 「あのーオールドファッションってもうないですかね?」 店員は確認してきますと言って裏の調理室らしきところへ行った。が、すぐに戻ってきて 「すいませーん、ちょっとご用意するのにお時間かかりそうなんですが…」 よし、何時間でも待とうじゃないか。 「あ、そうですか。じゃあ待ってます。」 私はレジ横の邪魔にならない場所でオールドファッションが出てくるのを待つことにした。

13年前

- 3 -

こないなぁー 15分くらいは経った気がする。もう帰る?そんなバナナ。私はオールドファッションが食べたいんだ。 しかもここで待っていれば出来たてが食べられるんだぜ?出来たてだよ。その意味がわかるかい? 何時間でも待つとさっきいっただろうが! …私は一体心の中で誰に語りかけているんだろう。落ち着こう私。はやくオールドファッションの糖分を取り入れないとやばいことになりそう。 お姉さんまだですか

ハイリ

13年前

- 4 -

否やばいことになりそう、ではなくもうなった。 私の頭の中は輝くオールドファッションが自動再生されている。 しかも、3Dで。神々しいその姿!!! しかし、まずいことにあれから45分23秒他のドーナツが手に届く位置に佇んでいるせいで もう、オールドファッションでなくても他のドーナツでも良い。例えば期間限定のとか。だって期間限定だよ? という邪心が己の心の中に過りはじめた…

saion

13年前

- 5 -

いやいや、待て私! オールドファッションを買うって決めたんだ。誘惑に負けちゃだめだ。オールドファッションのことだけを考えよう。 オールドファッション オールドファッション オールドファッション 期間限定ドーナツ オールドファッション オールドファッション 期間限定ドーナツ 期間限定ドーナツ……あれ? なんだか誘惑を払えていない?

13年前

- 6 -

期間限定ドーナツ 期間限定ドーナツ 期間限定ドーナツって今は何だったっけ? 思しきドーナツの棚に目をやると… なんとこちらのトレーも空っぽである。 誘惑なんて気のせいだったんだ! オールドファッション オールドファッション と、その時、奥からトレーを持ったお姉さんが現れた。 待ってました!さあ、ミッションクリアだ!!! トレーには期間限定の人気商品、エンゼルマロンがびっしりとのっていた…

ヤサカ

13年前

- 7 -

エンゼルマロン エンゼルマロン エンゼル、マロン? 違う!オールドファッション! 危ない危ない。私が食べたいのは最初からオールドファッション一択だ。 いつの間にか無意識に、ふらふらと近づいていたエンゼルマロンが並べられた棚から離れる。 もう59分30秒はオールドファッションの出来上がりを待っていることになる。 あと30秒もすれば一時間になる。 私は腹を括った。この30秒間が決断の時だ!

なつ

12年前

- 8 -

ふと、一番上の段の右側の商品に目が行く。・・・アップルパイ!!!!!! 思考はぐるりと反転した。自分でも分からないくらいにオールドファッションとは無関係のものに身も心も捕らわれた。 即決でアップルパイを購入し、店を出ようとしたその時。 「オールドファッションただいまできたてでございます!」 店内に響く店員さんの元気な声。盛大な溜め息と共に一気に疲れが溢れ出した。 「帰ろ。」

ちゃむ。

12年前

- 完 -