ようやく楽しみにしていた水泳の授業が始まる。俺は胸を高鳴らせていた。この前のサッカーではライバルの熱田に負けてしまったが、得意の水泳で取り返すのだ! 張り切りながらプールに向かう俺の横で盛大なため息が聞こえた。その正体は熱田だ。 「よぅ、熱田。ため息なんかついてどないしたんや?」 「俺さぁ。俺、水泳は苦手なんだよ……怖いんだ」 「ほぅ、珍しく弱気やな。そういう時は開き直るんとちゃうんか?」
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それより見てくれ、俺のこのゴーグル。このフレーム、色味。つけると虫の様で、めっちゃ様になる。が、熱田のリアクションは冴えない。 「そりゃ、他のことなら開き直ればそこで終わりだよ。でもさ、開き直っても水は鼻に入るんだ、痛いんだ、水泳反対」 それに学校、ゴーグルも禁止だし。 ぼそっと聞こえたそれを無視して俺はプールへと続く扉を押しひらく。そうだ、この色。この匂い。 「夏やなぁ……!」 曇ってるけど。
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まあええ。いくらナーバスになった熱田といえど、水に浸かりいざ勝負の場面になればいつもの熱いスポーツマンシップを思い出す事だろう。──そう睨んでいたのだが。 「はあああああ…………」 授業開始の挨拶が終わり、準備体操も済ませてシャワーを浴びる。それだけの間、実に6回も熱田は盛大にため息をついた。 「熱田!」 我慢ならず、俺は奴の肩を揺さぶる。 「そのため息やめぃ!」 こっちまで気が滅入ってくる。
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