フラム・ノーベル著 「九つの詩集」 一、 野ばらは歌う その思い出を 頬を染めたか弱い少女のように その花びらを揺らせながら 野ばらは告げる あの白い故郷の ひとり旅ゆく若者が 背負うかすかな哀愁を 野ばらは叫ぶ この何もない草原で 遠い昔に戻れぬ私に 無くした過去の大きさを 野ばらよ野ばら 伝えておくれ 二度とは会えない 恋しき人に 虚しい男の行く末を 野ばらよ野ばら 野ばらよ野ばら
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√2 学生の町を歩いて やり直したいと思ったんだ しないと決めたことが多すぎた 久しぶりのあの子がきれいになっていたんだ 声かけたら振り返ってくれるかな でも僕は影をつれて歩くことしかできない人間だ もう一つの世界を想像したんだ 可能性あった二つ目のルートを 僕が選ばなかったもののことを そしたら僕は幸せだったかな 女々しいこというなよと影が鳴く 終った過去に蓋をして 前に進んでいくんだよ
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3 無くしてしまったものは またみつかるかな 無くしてしまったものは ひつようだったのに 無くしてしまったものは 無くしてしまったのか 今となっては はじめから 持っていなかった気さえする 無くしてしまったものは みんなが持ってるようで 無くしてしまったものは だれも持っていないかも ただひとつわかるのは 持っていないと気づいたから わたしは欲しくてたまらないんだ
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Ⅳ 変わらない わたしの気持ち 変わってゆく あなたの気持ち 木々の色は 緑から黄に 巡り巡る 回転木馬の中 変わらないものは 永遠の時を留める 置いていった わたしの気持ち 変わらない……
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忢 嫉妬/怨念/隠し事 内心 義理/評価/世間体 外心 悲哀/別離/無慈悲 重心 俯き/諦観/虚無感 垂心 温情/斟酌/優しさ 傍心 数学の授業で思っていたはずだ こんなこと勉強して何になるんだって ほら、ここに答えがあるじゃないか 必要でないことなど存在しない 先生はそうやっていつも正しいことを教えていたつもりだぞ
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あれはどこのパレードかしら あれはどこのサーカスかしら 見知らぬ国から参ります 列を成して歩きます テレビの画面とラジオの間 あなたの耳と私の耳の間を綱渡り 太鼓鳴らして踊ります か弱い少女が歌います あれはどこのパレードかしら あれはどこのものでもありません あなたの夢です 枕にのっかるあなたの頭の国です でしたら あれはどこの私かしら あれはどこにいた私だったのかしら
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七。 身体中が音を立てるみたいに ぎゅぎゅぎゅっと集まる。 それはもう、愛しい気持ちを超えて。 似た顔、似た声、似た服。 貴方のパーツを思い出すと それはもう、走り出したいくらいに。 オモチャ箱みたいに キラキラ、ごちゃごちゃ、チープな感情。 上がりきらなかった幕が 下りきるのを忘れて 貴方を思い出すと 冷たい汗が、背中をつたう それはもう、怖いくらいの恋。
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8 最初に見たとき、驚いた。 何だか引っ張られるみたいに あなたに惹きつけられたから 縁を信じてみようかな、なんて 私らしくないこと考えた だけど私は、見た目も中身も ただただ普通なだけでして それはつまり、どうしようもないことでして ねぇ、神様教えてください。 天使さまでも遣わして だって私は、小説の中の 可憐な女の子じゃないのだから
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さぁ、これで終わりだ。 そう呟いた君は笑ってた? 今あたしの中で渦巻く感情は白?黒? さて、始めるよ。 そう言ったあたしは泣いてた? 今君の中で渦巻く感情は白?黒? 白だって黒だって、それは自分のもので。 白だって黒だって、ちゃんと色で。 …あの時の事はどうだっていいから、今すぐ… ______白黒付けましょ?
- 完 -