「チョコ!あんた私が見えるの!?」 僕はチョコ。ハルちゃんの犬。 ハルちゃんは"びょういん"というところにいるんだって前にママが言ってた。 今日、パパとママは黒い服を来て、悲しい顔で出かけたの。 帰ったらママが大事そうに箱を抱えてた。 そしたら久しぶりにハルちゃんが帰ってきたの! 「ハルちゃん!ハルちゃん!」 ー 「…チョコ、あんたにお願いがあるの」 「?」 「一日だけ、体を貸して!」
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残り24時間。 ……というわけで、あたし、何とか復活(?)。 ふと後ろを振り向けば、くぅ〜んと鼻を鳴らす半透明のチョコが宙に浮いている。あと丸一日しかない。 ……通学中、突然の自転車事故。無免許運転に跳ね飛ばされ頭割られて死亡なんて、ついてなさすぎる。 でも。 あたしは息を吸い込み、チョコの体で猛然と走り出す。 最初の行く先は、自室。 ーーあれとあれだけは人目に触れる前に処分しなくては‼
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まず一つ目はあれ・・・ 机の引き出し、鍵が付いたところに仕舞った 「第二ボタンとネームプレート」 中学の卒業式に付き合ってた彼氏にもらったけど、やたらうっとおしいだけの男だと気がついて別れた。 何が好きだったんだ?? 正直無駄な恋をしたと思ってる。 存在を忘れて処分しそびれただけ。あれを家族が見つけて「まだ好きだったのね 」なんて話しになったら死に切れない。 うぅ勘弁して・・・!
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そしてもう一つは 「スマホの日記アプリ」 に書き溜めた恥ずかしいポエムやら小説やらグチ日記。 あれを読まれたら、家族はあたしが死んだ事以上にショックを受けて、親なんか死んでしまうかも。 BL小説と家族へのグチ日記なんか書くんじゃなかった…。 兎に角、机の鍵とスマホを見付け出さないと、どっちの中身も処分出来ない。急がなきゃ! 自室の中を捜し始めると、半透明のチョコがクーンクーンと激しく鳴いた。
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後ろを振り返ると、やつれたお母さんがいた。 クゥゥーン(おかあさーん) 抱きつこうとした瞬間、私はそのまま母に抱かれて外に出されてしまった。 母の匂いを存分に楽しんだのだが…… あれ? ちょっと目的ちがくね? 鍵を閉められました。
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どうしよう!さらに部屋の鍵まで探せっての?! リビングの床に降ろされて呆然とするあたしに、半透明のチョコがキャンキャンと鳴いた。 はっとして顔を上げると、母があたしの骨壷の前に、部屋の鍵を置いていた。 ──ああっ! あたしのチャリの鍵…あそこに机の鍵も付いてる!それからスマホも供えてある! 探し物が一度に見つかった!喜んだのもつかの間… ちょっと、お母さん、そのスマホは触っちゃダメえぇ!
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私は忘れっぽい性格なので、スマホにロックなんて掛けていない。 あぁ、もう終わった…… 諦めて覚悟を決めた後にお母さんに目を移すとお母さんは泣いていた。 私は静かにそっと近寄ってスマホを覗いて見た。 これは、一昨年の私の誕生日の写真…? そこにはバースデーケーキを前にチョコと私が写っている写真だった。 あの時は私も素直で近所でも評判の良い子だったと思う。
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そして、私は気がついた。やっぱり、やめよう。 私の生きてた思い出として全部とっておきたいと…。 私はそう思った。どれもこれも私が生きていた思い出。だから、残して誰かに気がつかれて笑われたりした方が全然いいや! なにもかも全部私の思い出!処分するなんて持ったいないよね!そう思い、私の最期の一日を終えることにし、病院へ走って行った。そして、病院の私とチョコの体を持った私は入れ替わった。
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「チョコ。」 あれ?ハルちゃんまた浮いてる? なんだかスッキリした顔してる。 「チョコ、先にいっちゃうけど…」 「クゥン?」 ハルちゃんがなんだか色が薄くなってる 「チョコ、あんたはゆっくりおいでね」 ハルちゃんが消えてく! 「またね!」 「クゥゥゥゥん」 僕の必死な鳴き声と共にハルちゃんの姿は消えて行った。 ハルちゃんが昔言ってた。 「人はね死んだら星になるよ」って ハルちゃんも…
- 完 -