ループ〜理性と本能の狭間で〜

日曜日。晴れ。 俺が殺したひとは、綺麗な女の子だった。 黒い髪は短く切り揃えられ、形の良い耳と、すこしきつい目つきが印象的だった。名前も住んでいるところも知らない。 死体は隠した。 場所はここには書かないでおく。警察に見つかるのも、時間の問題だと分かっている。きっと10日も無い筈だ。一週間隠れられたら良い方だろう。 この日記は、俺が捕まるその瞬間まで、書き綴ろうと思っている。

13年前

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月曜日。曇り。 昨日から、ネットカフェに籠っている。 もう家には帰らないと決めた。 今日の昼過ぎに死体が発見されたと、第一報が出た。 あの女の子は、一人暮らしではなかったようだ。帰って来ないという家族の通報を受けて捜索、と記事には書かれていた。 その記事で、俺は初めて彼女の名を知った。 あれからずっと俺はニュースを検索し続けている。 名前は分かった。 でも、写真はまだ公表されていない。

leisai

13年前

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火曜日。曇り。 朝のニュースでついにおれの情報が世間を賑わせ始めた。指名手配だ。 偽名とはいえ、同じ場所には長くいられない。一日おきに場所を変えようと思う。 夕方から街を歩いた。 世界で1人になった気分だった。怯えながらもこれからのことを考えた。 真っ暗になった公園でふと思った。この殺人犯に法律も何もない。何でもできる。怯えていても破滅するんだ。 だったらやりたいこと、全部やってやる。

N.YOHAKU

13年前

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水曜日。曇り時々雨。 大した額ではないが、ATMで貯金を全額降ろした。 それから鉛筆とスケッチブックを買い、公園から見える街並みを描いた。俺から見る世界を俺の手で記録しておく。 一時間程して書き終えそうになると、雨が一粒、二粒、画用紙を叩いて俺の世界を滲ませた。 雨が振り出した。もうスケッチはできない。 繁華街に出かけ初めて風俗店に入る。風俗嬢達はニュースなど見ないので全く怪しまれなかった。

Midvalley

13年前

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木曜日。晴れ。 雨の翌日だから、空気が澄んでいる。きっと美しいだろうと思い、山に登った。 雨の翌日ということもあり、他の登山者は見かけなかった。お陰で、こうして見るのも最後だろう、という街並みを一番綺麗な姿で独り占めできた。 食事も贅沢をしたいところだが、まだ軽はずみな行動は控えようと思う。 とりあえず、コンビニでご飯を済ませ、ネットカフェで晩を越した。

13年前

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金曜日。雨。 せっかく昨日は晴れていたのに。 雨の音がうるさい。 ついに、俺の顔写真と名前が公開された。 そして、生前の少女の顔も。 少女の友達や、両親が少女を失った悲しみや、犯人への憎悪を語る。 「早く捕まって欲しいです」 もう、そろそろかな。 ざあざあざあ。 雨の音が響く。 ざあざあざあ。 うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさ。

せろり

13年前

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土曜日。 雨? ここはどこだ? 昨日、目の前に黒服の男達がいきなり現れたかと思えば、スタンガンで気絶されられ、気づいたら、何もない部屋に一人寝ていた。 ざあざあざあざあざあざあざあざあ。 雨らしき音は聞こえる。 雨なのか?本当に。

hamadera

13年前

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日曜日。晴天。 俺は自宅のベッドで目覚めた。意味がわからない。おもむろに携帯を開く…日付は、一週間前の日曜日だった。ありえない状況にも関わらず、俺は案外冷静だった。 …そうかおれは明日、殺すのか。 これは、神様がくれたチャンスなのだろうか?それとも一度、人を殺した俺に見せる悪夢なのだろうか? わからない…。 ここで俺はそもそも何故殺人という大罪を犯したのか振り返ってみる。

銀色桜

13年前

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俺は明日の早朝、散歩中にあの綺麗な少女に出くわす。少女は転んだのか、体内から紅い血が見えていた。俺はその液体がとても欲しくなった。あんなに綺麗な紅い色は見たことがなかったからね。俺は何の気兼ねも無しに少女を殺した。殺した後でやってはいけないことだと気付いて、液体のことを忘れてしまっていたのだ。 俺は思い出しただけで、胸の高鳴りが抑えられなくなった。 朝起きたら、散歩に行こう。

aegis

13年前

- 完 -