メタバース
眠い夜は
瞼を閉じて
ただ 静に眠ればいい
なのにわたしは
PCの電源を入れ
とあるメタバースにログインする
アカウント YUI
パスワード xxxxxxx
「こんばんは。まってたよYUI!」
「きょうも可愛いね!」
「今晩も頼むね!」
「お前らウザ!YUIは俺のモノw」
イケメンのアバター達が
わたしのアバターYUIに群がる
わたしの眠気は快感に代わってゆく
- 1 -
ところが最近、異変が起きていた。Ayakaというアバターが現れたのだ。
Ayakaは新人のくせに課金アイテムで着飾っていて、明らかにYUIよりも注目されている。
YUIもプレゼントされたりで、いくつかレアな服やアクセサリーを持っているけど、Ayakaには遠く及ばなかった。
おまけに、YUIとキャラがカブっている上に向こうのほうが目立つので、イケメン達もAyakaに夢中になっていったのだ。
- 2 -
これは許される事なのか?
否、YUIこそがこの世界の頂点に立つべきなのだ。
負けてたまるか。
わたしは彼女を超えるべく、高いアイテムを買い漁った。
有料イベントにも積極的に参加した。
ネットパーティーも開催した。
そして、数日後。
気が付くと、わたしのカードは限度額の10万円に到達していた…。
- 3 -
Ayakaがいなければ、こんなことにはならなかったのに。
わたしは彼女に近付くために男のアバターを作った。お金は使えない。見た目がよくないと彼女には近付けない。
アバターが普通でも、彼女に注目されるにはどうすれば?
彼女は、どんな言葉に喜んでいたのか。
わたしは彼女を陥れることしか考えられなくなっていた。
- 4 -
Ayakaの悪いところを引き出すにはどうすればいいのか。
所詮は人間。人間である以上、嫉妬の感情がないわけがない。誰かを特別視することもあるだろう。多くの取り巻きに囲まれている今、その行為は彼女の輪を狭めることに繋がる。
「ランキングつけて下さいよ」
男のアバターで私は呟いた。彼女に対して発した言葉ではあるけれど、狙いは彼女に群がる奴らに向けられている。
「Ayakaは誰が一番好きですか?」
- 5 -
当然、取り巻きたちはどよめいた。ここにいる連中なら誰だってAyakaに好かれたい。自分が他人に比べてより好かれていたら、どんなにいいだろう。俄然、クサい台詞やプレゼントがAyakaの周りを飛び交い始める。そして、ライバルの醜い叩き合い。良い展開だ。皆も、私も、Ayakaの言葉を今か今かと待っていた。
そして。
「そんなの、決められないよぉー。Ayakaは、みんなだいすき」
……イラっときた。
- 6 -
「そんな事いわないで。さっ、早く決めてよ。これから週末に、ランキング発表して、最下位のやつから消えていくってゲームどうかな?」
一瞬の静寂…
「そんでさぁー、最後まで勝ち残った奴が、Ayakaとリアルで会うってのは?ね、面白そうじゃん」
「えぇーっ⁈」Ayakaは最初こそ、渋るふりをしていたが、自分が男たちを選別できる喜びを想像し、結局は承諾した。
この勝負に勝たなければ。
- 7 -
そして最初の週末を迎えようという前日の深夜。私はYUIとして、男たちに囲まれていた。
人数は減った。しかし固定のファンはAyakaの周りよりも、上質な男の子ばかりがいる。
そう思ってみても、春霞はまだ重くおりている。明日になって、Ayakaの顔が曇るまでは。
今日はイベントのない日で、私たちは互いを褒めあって、だらりと過ごしていた。
そして、平和なネット生活はその日までだった。
- 8 -
「じゃあ…最下位から発表するねっ」
週末、Ayakaの発言に緊張が走った。
「最下位は…。この企画を考えた、あなた」
Ayakaは私の男アバターを指差して言った。
「ひとをランク付けするなんてやっぱりよくないことだよ。だから発表はこれ以上、ユイません!」
男たちからは甘美のため息が聞こえるようだった。これでAyakaの評価は決定的だ。
Ayakaのアバターが一瞬ニヤリと笑った気がした。
- 完 -
作品情報
メタバース
#896
- リレー期間
-
10ヶ月