メタバース

眠い夜は 瞼を閉じて ただ 静に眠ればいい なのにわたしは PCの電源を入れ とあるメタバースにログインする アカウント YUI パスワード xxxxxxx 「こんばんは。まってたよYUI!」 「きょうも可愛いね!」 「今晩も頼むね!」 「お前らウザ!YUIは俺のモノw」 イケメンのアバター達が わたしのアバターYUIに群がる わたしの眠気は快感に代わってゆく

真月乃

13年前

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ところが最近、異変が起きていた。Ayakaというアバターが現れたのだ。 Ayakaは新人のくせに課金アイテムで着飾っていて、明らかにYUIよりも注目されている。 YUIもプレゼントされたりで、いくつかレアな服やアクセサリーを持っているけど、Ayakaには遠く及ばなかった。 おまけに、YUIとキャラがカブっている上に向こうのほうが目立つので、イケメン達もAyakaに夢中になっていったのだ。

saøto

12年前

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これは許される事なのか? 否、YUIこそがこの世界の頂点に立つべきなのだ。 負けてたまるか。 わたしは彼女を超えるべく、高いアイテムを買い漁った。 有料イベントにも積極的に参加した。 ネットパーティーも開催した。 そして、数日後。 気が付くと、わたしのカードは限度額の10万円に到達していた…。

hyper

12年前

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Ayakaがいなければ、こんなことにはならなかったのに。 わたしは彼女に近付くために男のアバターを作った。お金は使えない。見た目がよくないと彼女には近付けない。 アバターが普通でも、彼女に注目されるにはどうすれば? 彼女は、どんな言葉に喜んでいたのか。 わたしは彼女を陥れることしか考えられなくなっていた。

12年前

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Ayakaの悪いところを引き出すにはどうすればいいのか。 所詮は人間。人間である以上、嫉妬の感情がないわけがない。誰かを特別視することもあるだろう。多くの取り巻きに囲まれている今、その行為は彼女の輪を狭めることに繋がる。 「ランキングつけて下さいよ」 男のアバターで私は呟いた。彼女に対して発した言葉ではあるけれど、狙いは彼女に群がる奴らに向けられている。 「Ayakaは誰が一番好きですか?」

aoto

12年前

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当然、取り巻きたちはどよめいた。ここにいる連中なら誰だってAyakaに好かれたい。自分が他人に比べてより好かれていたら、どんなにいいだろう。俄然、クサい台詞やプレゼントがAyakaの周りを飛び交い始める。そして、ライバルの醜い叩き合い。良い展開だ。皆も、私も、Ayakaの言葉を今か今かと待っていた。 そして。 「そんなの、決められないよぉー。Ayakaは、みんなだいすき」 ……イラっときた。

lalalacco

12年前

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「そんな事いわないで。さっ、早く決めてよ。これから週末に、ランキング発表して、最下位のやつから消えていくってゲームどうかな?」 一瞬の静寂… 「そんでさぁー、最後まで勝ち残った奴が、Ayakaとリアルで会うってのは?ね、面白そうじゃん」 「えぇーっ⁈」Ayakaは最初こそ、渋るふりをしていたが、自分が男たちを選別できる喜びを想像し、結局は承諾した。 この勝負に勝たなければ。

Salamanca

12年前

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そして最初の週末を迎えようという前日の深夜。私はYUIとして、男たちに囲まれていた。 人数は減った。しかし固定のファンはAyakaの周りよりも、上質な男の子ばかりがいる。 そう思ってみても、春霞はまだ重くおりている。明日になって、Ayakaの顔が曇るまでは。 今日はイベントのない日で、私たちは互いを褒めあって、だらりと過ごしていた。 そして、平和なネット生活はその日までだった。

sir-spring

12年前

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「じゃあ…最下位から発表するねっ」 週末、Ayakaの発言に緊張が走った。 「最下位は…。この企画を考えた、あなた」 Ayakaは私の男アバターを指差して言った。 「ひとをランク付けするなんてやっぱりよくないことだよ。だから発表はこれ以上、ユイません!」 男たちからは甘美のため息が聞こえるようだった。これでAyakaの評価は決定的だ。 Ayakaのアバターが一瞬ニヤリと笑った気がした。

旅人.

12年前

- 完 -