怠け者の王様

ある所に働き者の青年がいました。 その働きっぷりは噂になり、 その噂を耳にした怠け者の王様は青年をお城に招きました。 王様は青年に 「お前はこの町一番の働きものだそうじゃないか。なら、このワシにお前がどれほど働き者なのか教えてみよ」 と言いました。 それを聞いた青年はこう答えました。

utumiya

12年前

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「王様、僭越ながら、こういったことは”論より証拠"にございます。 私めが本当の働きものであるかどうか、王様のその目でお確かめになるのが一番かと」 王様はそれを聞いてふむふむと頷き、 「まあたまには城下を見るのも悪くない。よかろう。じい、馬を出せ」 と首を縦に振ったものですから、家臣の者は皆目を丸くし仰天しました。 というのもこの王様、もう三年近く城を出ていないのです。 怠け者だからね。

餡蜜.

11年前

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王様は青年の職場に訪れると、彼の仕事っぷりをみることにしたのでした。 青年は朝は田畑に水をやり、昼から夜まで鉄工所で熱い鉄を打ちました。青年は一日中働いていたのです。 辛抱癖のない怠け者の王様ですから、お昼にもならないうちに、 「おまえが働き者であることはよくわかった」 と、一言かけてお城へと戻るのでした。 そして、よりいっそう職務を怠るようになったのでした。

aoto

11年前

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家臣たちはひどくがっかりしました。 内心では、この青年の働きぶりを見て、王様が心を改めるのではないかと期待していたからです。 しかし、王様の青年への興味は、まだわずかに残っていたようでした。 ある日、再び青年を呼び、こう問いました。 「なぜそんなに一日中働くのだ? ワシが国づくりを怠けているからか?」 「いいえ、王様。働くことが楽しいのです」 王様は、それを聞いて顔をしかめました。

ミズイロ

11年前

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「わからんな。 働くことが楽しいなど」 ぶつぶつと王様が呟きます。 「ワシは働いているとだんだん面倒臭くなる。 面倒臭いと頭が痛くなり、横になりたくなる。 一体、どこを楽しめるのだ?」 その言葉に、青年は首を傾げました。 「面倒臭い? 私は働くと充実感を覚え、一生懸命になるほど生きてるって感じがする。 つまり私にとって、働くことは生きがいなんです。 生きがいに面倒臭さは感じませんよ」

Today.

11年前

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「いよいよ解せん。ワシにはおまえの気持ちがさっぱりわからん」 王様は立派にたくわえた髭をしごきながら、その下で口をへの字に曲げます。 「ワシは好きで王様をやっているワケではない。血筋がワシを玉座に縛り付けておる」 「それはそれは。奇遇にございます王様、私も血が労働を強いております。ですが、それを特権と思っております」 青年は言いました。 「王様、本日だけ王族を怠けてみては如何でしょう?」

おやぶん

11年前

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「ほほぅ。王族を怠けるとな…面白い事を言う」王様は愉快そうに目を細め、青年にこう言った。 「では1日だけ、おまえが玉座に座るが良い。いかにつまらんモノか判るであろう。ワシは城下で戯れるとするかのう」 その言葉に家臣たちは反対の声をあげましたが、青年は 「王族を怠けるからと言って人間として怠けられては困ります。王様には是非、私の暮らしを1日だけ体験して頂きとうございます。きっと楽しんで頂けますから」

10年前

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王様は青年の代わりに働きました。 でも昼にもならないうちに面倒臭がる癖が。 しかし王様は1日だけだからと踏ん張りました。 ➖夕方➖ 王様は城に帰ってきました。そして 「やはりこんなものはやっていられない! お前の気持ちなど分からぬ!」と言いました。しかし青年は 「本当にそうですか?私は王様を1日経験し国のことを任されている喜びを知りました。 王様もかつてその喜びを感じたのではないですか?」

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その言葉で、王様は若き日々を思い出しました。 確かに自身にもそんな時がありました。けれどそれは遙か昔の話です。あの情熱は二度と戻ってこないでしょう。 王様は、王子を呼ぶよう言いました。 「ワシは今日限りで退き、息子に王位を譲る」 家臣たちは大騒ぎしましたが新王は青年を家臣に取立て国を繁栄させました。 怠け者の王様は、青年のおかげで最後の決断だけは怠けずに済み、後世では名君と讃えられたそうです。

misato

10年前

- 完 -