「う、嘘だよ」 絶望したように歪む彼女の顔を見て、僕は慌ててそう言った。 彼女は僕の付け足した言葉に、酷く安心したような顔をすると 「そうだよね。ひろちゃんは私のこと大好きだもんね」と笑う。 彼女は僕からの愛に依存していて。 僕の彼女への愛はもうとうに枯れ果てていて。 僕から彼女に向ける感情はもう、同情しかないのに。 間違いだらけの僕等の関係に終止符を打つ言葉を、僕はいつも嘘にしてしまう。
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「ひろちゃんったら嘘が上手なんだからあ!!」 「あ、ああ‥びっくりしただろう?」 「この私と別れたらどうなるか分かってるの?」 この冷たい目がそう訴えている、 女は怖い生き物だ。 僕はこの瞳になんど殺されかけたことだろう。 例えば‥そう‥
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あれは、夏の暑い夜だった。 僕はもう二人の関係に疲れて別れをきりだした。 「もう僕たちは一緒には生きていけない。別れよう。」 二人でよく行っていたフレンチの店で僕はそう言った。 「えっ。嘘だよね。ねぇ、嘘だって言って。」 彼女は必死でぼくを繋ぎとめようとしていた。 そして、その日を境に僕の生活は一変する。 ストーカーになった彼女に悩まされる日々へと…。
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あの夜もそうだった バイト帰りのコンビニで雑誌をみながら考えていた 今日帰ったらアイツに言おう、一言言おう、 「今までありがとう、俺、もうお前から卒業したいんだよ」 その時、肩を叩かれた。振り返ればもちろん、アイツがいた 「おそいじゃん、私待たせるとどうなると思う?」 そういってケータイを出し、俺の父親に電話をはじめた
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「ちょ、おいやめろって、悪かったから!」 読んでいた雑誌を無造作に置き、携帯を取り上げ通話を切った。 「えー?本当にー?」 彼女が疑り深いのを忘れていた僕は餌をちらつかせるようにした。 「なんか奢るから、今日は許してくれ」 しかし、彼女はこれを華麗にスルーし、こんなことを言い出した。 「じゃあさ……ちょっとそこの公園までついてきて!」 ……僕の話は無視ですか? そのまま強制的に公園まで連行された。
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公園へ着くと、彼女は僕をベンチに座らせた。 「ねえ、ひろちゃん…。」 「…なに…?」 彼女のギラついた瞳には僕だけが映っていた。そう、僕だけが。 「っ……んっ…」 「ひ、…ろちゃ……ん…っ…」 彼女は僕に深いキスをした。気持ち良さそうに僕の名前を呼ぶ彼女は、昔のように可愛かった。だけど僕は…もう君を愛せないんだ。 「あの子、誰なのよ。」 「…あの子って…?」
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「ひろちゃんのケータイにぃ、よくメールしてくるゆみこちゃん♡」 「おまえっなんで、ケータイ、、」 「うふふふ♡あれさぁ、どういう意味?」 女は俺のポケットからケータイを出し あの女はただのストーカーなんだよ。 というゆみこちゃん宛のメールを突きつける。 「本当は浮気なんて許せないんだけど、いまここでゆみこちゃんに君みたいなブスとはもう関わりたくないんだってメールしてくれたら許してあげてもいいよ?」
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俺っていう人間は、人生の中でブチ切れたりしない、自分の意思の弱い人間だとばかり思っていた。 だが、それは違った、 俺の中に溜まっていたものが 急に溢れ出てきて、キレタ、、、 ブスはおめぇーだよっ!!!こらぁ! あぁ! お前の許しなんていらねーんだよ。 お前のこと、最近、ゴリラにしか 見えねーんだよ!!! あー早く口洗いてぇー!!ゴリラとキスしちまったよ。
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思いつく限りの暴言を吐き散らしたあの夜から彼女が視界から消えた。代わりに、扉を叩く音がするようになった。毎日、コンコン、じゃなくて、ドスドス、と。天井のホコリを落とす物騒な愛が部屋を揺らす。 恋人が何人目になっても、何度引っ越しても、どこに居ても、いつも彼女は僕のすぐそばにいるらしい。 僕にとって彼女の存在は重苦しくて嫌で嫌で関係を絶ちたかった、はずなのに 不意に会いたくなるのは何でだろう?
- 完 -