「犯人はこの中に居ます。」 豪雪で陸の孤島となったコテージで起きた殺人事件・・・確かに犯人はこの中に居るだろう 全員がアリバイを持っていない、さらに全員が被害者を殺害する動機を持ってる事は周知の事実だ と言うか犯人は俺だ 全員のアリバイが無いよう工夫して、やっとの思いで成し遂げたのだ それにミスがあったのだろうか? 俺は、青年の言葉の続きを待った が、それは予想外の物であった
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「そして……犯人はこの、私だ!」 おいおい青年、ちょっと待て。 危うく「違う。真犯人はこの私だ。何故なら、全員のアリバイが無いように工夫したんだからな!」と言いそうになった。 アブナイ、危ない。 しかし、何を言い出すかと思えば……。 距離をとっている者もいれば、凍りついて動けない者も居る。ガサゴソとナップザックから五徳ナイフを取り出し、青年と対峙している人もいる。 それにしても解らん!
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「ど、どうしてヤツを殺したんだ…!?」 気がつくと、俺は犯人でない犯人を追及する立場で、そんなことをほざいていた。 もちろん、犯人は俺だ。 刑事モノのドラマのデカが言うようなセリフを吐ける立場じゃない。 でも、だからこそ、俺の口はそんな陳腐なセリフを吐いたのだ。 そこの青年、何で、そんなことを言っているんだよ!?犯人の目の前で! 「動機ですか、そうですね…それは」 一間、そしてー
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「気分、ですかね」 全員が、凍りついた。 …俺以外。 だって俺が犯人だし。 気分で人を殺すような奴がいたらすごく怖い。 まあ、こいつは違うけど。 ああ。すごい罪悪感。 青年は続ける。 「まあ、気分っていうか、なんというか。事件が欲しかったんですよ。最近、事件がなくてつまらなかったんです」 なんだそのホームズみたいな話。 まあ嘘なんだけど。 だって犯人俺だし。
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つーか、なんでそんな嘘を吐くの? 久々の事件でテンション上がって事件を複雑化したいのか? 「つまり、過程はどうあれ事件発生の事実が大事なんですよ。」 たとえ発生させたのが私でも、と青年は犯人の前で言っている。 いや、発生させたの俺なんだけど…… そんな緊迫した空気の中で女性が1人青年と俺の間に割って入ってきた。 「待って!その人は違うの!犯人は私よ!!」 ……ん?待て待て…… 犯人俺だよ……?
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「犯人が二人名乗りをあげるだなんてどういうことだ」 「私、犯行を再現することができます」 被害者となった女は密室の部屋で俺が殺した。コテージにあるものを使えば誰にでも犯行が可能な、ありふれた密室トリックを使った。女性はそのトリックを説明した。 トリックは正解だけれど、犯人は俺なんだが。 「いいや、俺が犯人だ」 女性を遮り、三人目の男が犯行を自供した。なぜ、こいつらは揃って犯人になりたがるのだろう。
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三人目の男はさっきの女性とは少し違った密室トリックを饒舌で披露した。 その顔には誇らしさすら感じる。 すると三人目の男と一緒に泊まりに来ていた女性Bが叫んだ。 「嘘だわ!この人は部屋にいたはずよ!だって私がやったんだもの!」 一体どうなっているんだ…犯人は俺なのに…。 こうなると俺がやったと言いたくなってくるから不思議だ。 こうしてついに俺とコテージの管理人のおばあさん以外の全員が犯行を自供した。
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すると、管理人のおばあさんは急に涙を流し始めた。 「…そうかい、みんな私の事を思って…」 おいおい、まさかこの展開って…。 「ありがとうみんな。でも、もういいんだよ。私はこれから警察に自首しに行くよ」 「違う!私が犯人だ!」 「いえ!私が犯人よ!」 「いや!俺だ!」 「いいえ!私よ!」 遂に俺以外、全員自供…。 しかも、他のみんなはおばあさんを囲って泣き出してるし。 何なんだ、この展開。
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その時青年が問いかけた。 「皆さんあの男をどう殺したんです?」 ───男? 撲殺だ絞殺だと語る者、死体を動かし密室を作った者。戸惑う俺を置き去りに意見が飛び交う。 「つまり止めは誰の一撃かはさておき、全員が危害を加えていた。しかし…」 青年は一呼吸置いた。 「あの男は女性を殺していますから、殺らなきゃまた犠牲が出たでしょう」 声が出ない 殺されたのは俺? 一瞬、青年が笑って見えた。
- 完 -