肉球おじさん

ある朝、目が覚めたら、両手が肉球になっていた。 そう、猫や犬についているような、あの肉球だ。周りに生えている毛は茶色一色で、なかなか毛艶もよい。肉球もピンク色で、プニプニと柔らかそうだ。 しかし、これでは、箸を持つどころか、着替えさえもできない。 さあ、これからどうしよう?

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取り敢えず、唐突に起こった非現実な事態に、まずは夢だと仮説を立てて解決を試みる。つまり、頬を抓ってみる、が。 「この手じゃ無理じゃん」 一人ツッコミは虚しく木霊する。 ならばプランB。この穢れを知らぬ肉球がどれほど人の手に近い動きが出来るか試みる。 まずは、毛布を掴んでみようと、肉球で触れる、が。あれ? この手触り、なんか懐かしい感じ。ずっと触っていたい。モミモミしていたい……って、は!

流され屋

11年前

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いかんいかん!気持ち良くてついうっとりしてしまった。 しかし本当に困った。毛布どころか何も掴めない。これでは生活できないではないか。 病院に行くべきだろうか?とりあえず会社に連絡をしなければ。 だけど、スマホを前に途方に暮れてしまった。 社長にこの状態をどう説明したらいいんだろう? 手が肉球になって仕事が出来ませんなんて信じてもらえるわけがない。 そもそも、肉球でスマホ操作できるの?

sabo

11年前

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器用に手…じゃなくて肉球を使ってスマホの電源を入れる。 よし、ここまではなんとか出来た。 問題はこの次だな…… ロックの状態の画面を右にドラッグ…… 出来たぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎⁉︎ すげー、スマホ‼︎肉球でも使える! そういえば、猫好きの友達が猫で実験してたなぁ… いかんいかん、社長に連絡せねば…! そういえば、今、人語話せるのか?

11年前

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「あ、あーあーあー。」 なんとか話せたぞ。なんかいい声になってる気がする。 気のせいか。 とりあえず、連絡を、、、! 、、、肉球が!!肉球が! 大きすぎて細かい操作ができない!! とりあえず会社に行くしか! 30分ほどかけてやっと着れたネクタイのしまっていない服で玄関へむかう、、!

長野林檎

11年前

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、、、クビである。散々怒鳴られた末のクビ宣告である。 ああ、人の人生なんて、肉球一つで変わっちまうもんなんだな。 ハードヴォイルドな笑みを浮かべ、手にした缶コーヒーのプルタブを、、、やっぱ開けられなかった。 ズーンと、重量二倍、闇二倍なそんな昼間。 1人の少女が話しかけてくれた。 「ねーおじさん、おじさんはどーして手が肉球なの?」 黙れえ!! 怒鳴りたいのは山々だがそういう訳にもいかないだろう。

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「ねーえ、肉球おじさんってば」 その言葉にギョッとする。「肉球」と「おじさん」…これほど組み合わせが気持ち悪い単語も、なかなか無いぞ。 あぁぁ、頼むからそれを連呼しないでくれ。 止めたいのだが、ちゃんと話せるかどうか。 「…おじさんはにゃ、」 にゃ、だと!?話し方まで猫になってしまったのか! 「…コホン。あー、あのな、おじさんはだな、」 ……………。 普通に喋れんじゃん!さっきのはなんだ!?

ウサナギ

11年前

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「朝起きたら、なぜか手が肉球になってたんだよ。」 そう言い終えると、ふぅとため息をついた。 そんな私を不思議そうに見る少女。 「じゃあさ、にくきゅーいらないの?」 「うん。いらないよ。」 そう答えると、少女はぱあっと顔を輝かせた。 「じゃあさ、じゃあさ、じゃあさ!」 少女の話は、なかなか始まらない。 「私に、にくきゅーちょーだい!」 へ? 「いやいや、ダメだよ!」 そう言うと、少女はもじもじして、

1106

10年前

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「私の手とこうかんこしよ♪」 「ムリだよ」 「だいじょーぶ」 少女はリュックからハサミを出して振り上げた。 「ぎゃっ‼︎」 「はいこうかんこ♪」 「……?」 いつの間にか手が入れ替わってる。 呆然とする私に少女が言う。 「肉球ありがとにゃ」 私は‘‘もじもじ’’しながら訊く。 「ほんとにいーの?」 口調が少女っぽくなってしまっている……気色悪い。 ……あぁ、誰か本当の私の手を知りませんか?

マーチン

10年前

- 完 -