2012年4月。あるところに爺さん婆さんがおりました。 爺さんはシルバーセンターに仕事を探しに、婆さんは二層式洗濯機で洗濯をしていました。 すると婆さんのところへ、桃を持った怪しげな少年がやってきました。 常識的な世間を知らない婆さんですが、その少年の奇妙な作り笑いには違和感を覚えました。 「婆さん、近寄るんじゃあないッ!そいつは使い手かもしれないッ!何かがやばいッ!」
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爺さんはスマートフォン越しで叫びました 婆さんのガラケーからはノイズ混じりの爺さんの声が聞こえました しかし婆さんはよく聞こえず、また爺さんのいつもの病気が始まったと呆れ終話ボタンを押してしまいました。
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桃を抱える奇妙な少年は言う。 「おばあさん。例のモノを貢ぎにはせ参上いたした」 「ご苦労。じゃあ早速」 おばあさんは全自動管理センターに脳からの電波を介して中枢に繋ぎ、個人のデータを検索する。その中から【マップターツ】と呼ばれる超振動電動鉈を素粒子倉庫から空間転移させた。 物体はすべて素粒子に還元され、また素粒子から物体を創り上げる技術が確立している。 おばあさんがマップターツを空間に呼び起こす。
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おばあさんはマップターツの電動鉈を少年の持っている桃に傾けました。 電動鉈は音もなく桃を切り裂きました。 桃からは透き通る果汁が飛び散り、薄い色をした果肉が身をのぞかせます。 辺り一面、透き通った甘露の匂いが漂います。 「この桃もマップターツによるものです。粒子によって、最高の糖度と芳醇の時期を得、味の黄金比を整えられています。若返りの効果も絶大です」
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桃の中から、オギャーオギャーという声が聞こえてきた気がしないでもありませんが、そこは若返りに目の眩んだおばあさん。躊躇いなく桃を真っ二つに切り裂いていきます。すると、何ということでしょう。飛び散る透き通った桃の果汁は、みるみるうちに赤く、しまいにはドス黒くなっていくではありませんか。 「これはいけない。」 少年はそう呟くと、【フッカーツ】を空間転移すべく、全自動管理センターにアクセスを始めました。
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全自動管理センターはフッカーツを瞬時に送信し始めました。 フッカーツはSTAP細胞理論を応用しています。 少年がそれを告げると、おばあさんは来年、STAP細胞を発見するのが若く可愛い女性だと未来予知し、たいそう羨ましく思いました。 すると突然、 「嵐よりやっぱSMAPが好きじゃ!」 と、STAPとSMAPを勘違いしたおばあさんはフッカーツ出現中の超時空電磁嵐の渦の中に飛び込んでしまいました。
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「ば、ばあさぁぁああん!!!」 息も絶え絶えに走り込んできたのは、先程おばあさんに認知症呼ばわりされた挙句、無視されてしまったおじいさんでした。 「ま、待ってろッ!!仕事は、見つからなかったが、すぐに、ワシが、助けてやるからなッ!!」 おじいさんはそう叫ぶと、年に似合わず新調したスーツを脱ぎ捨て、【漢のふんどし】のみを身体に纏うと、迷うことなく超時空電磁嵐へとダイブしていきました。
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おばあさんとそれを追いかけたおじいさんはそのまま時空を超えて、べつの時代に着き、2人で幸せに暮らしましたとさ。 おしまい。 「私がまだ子供で平成に生きていたときにはまだまだこんなお話じゃあなかったんだよ。 時代が変わると昔話も変わるもんなんだねぇ。 さあ、今日の物語は終わりだよ。もう寝なさい。」 「はーい。おやすみ、おばあちゃん。」
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「ふっふっふ…随分と楽しそうだな、お婆さん。」「誰だ!この私の名を気安く呼ぶ不届きものは!?」お婆さんが後ろを振り向くとそこには認知症のお爺さん略してにんじんがいました。「お、お前は…にんじん!生きていたのか!?」お婆さんはビックリ仰天「この私を誰だと思っている!貴様に無視されたあの日から復讐を誓って毎日地獄のような修行していたのさ!」にんじんは高笑い。その声は天まで届き竜王を蘇らせてしまった。
- 完 -