私には双子の妹がいる。 うちはあまり裕福ではなく、いろいろなものが一人分しか用意されず、姉妹で奪い合いのケンカをすることがあった。それを見かねた母の言い付けで、ある時から私と妹はなんでも半分こにするという約束をした。 勉強机も半分ずつ使い、おやつのケーキが一つでも半分こ。新しい服もかわりばんこに着た。 それでずっと上手くいってた。仲良くやってたのだ。 だけど彼だけは、彼だけは半分こにできない!
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お姉ちゃん! 約束したじゃない なんでも半分こだって! ちょっ待って! 彼は人間よ! 半分こになんか出来ないし 何考えてるの!?
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そうこうして10年経ち、実家に母娘二人で先日交通事故で亡くなってしまった妹の娘を引き取りに来た。私の娘は今年で3歳になる。私は地元を離れていたので妹の娘に会うのは初めであった。妹は男に捨てられた、という話は事故の後に母から知らされていた。引き取り手がなく、仕方なく私が親として育てることにしたのだ。妹の娘は私の子と同級生らしい。 ガチャリ……。 玄関を開けて驚愕した。 私の子と瓜二つじゃない。
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姪っ子は疲れた目をしていた。実の母が亡くなったショックでずっと泣いていたのだろう。 その子は私を見て大きく目を見開いた。 「ママ!」 姪っ子は駆け寄って、私の足にギュッとしがみ付いてくる。 確かに彼女から見たら、ママが帰ってきたと勘違いもするだろう。ママと私もそっくりなのだから。 「…お名前は何ていうの?」 「? 舞だよ」 何てこった。私は頭を抱えた。 娘の名前は唯。姪は舞。名前まで瓜二つだ。
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そして、妹と同じくシングルマザーの私は女手一つでこの瓜二つの娘達を育てることになった。 彼女たちはまるで小さい頃の私達のよう。 二人で一つ、なんでも半分こ。 ……懐かしいなぁ。 そう思いながら妹の遺品を整理していたとき、ある写真が目に入った。 そこに写っているのは、妹と………私の元カレ⁉︎ そう、間違いなく元カレ。 …唯の父親だった。
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えっ……。なんで?いつ? 何が何だかわからなかったが、とりあえず今までの事を頭の中で整理した。 実の娘と瓜二つの姪っ子。 父親が同じならば、似ていることにも納得がいく。 私たちも瓜二つなのだから。 確かに、私たちはなんでも半分こにしてきた。ケーキや洋服、勉強机、二人で分けれるものは全部。 でも、それにしても彼までなんて……酷すぎる。 写真と共にこの秘密は自分の胸にそっとしまっておくことにした。
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唯と舞は本当の双子のように育っていった。 幼い頃の妹と私を見ているような気分だ。 机もケーキも洋服も半分こ。 分けられるものは半分こ。 だんだん私は怖くなってきた。 だって、このまま、大人になったら、私達と同じことを繰り返すんじゃないかしら。 もし二人がこのまま同じ環境で育ったなら同じ人を好きになることだってあり得る。 悩んだ末に、私は二人を別々の全寮制の学校へ入学させた。
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やがて唯と舞は別々の大学に進み、それぞれに独り暮らしを始めた。 唯は頻繁に帰ってくるが、舞はあまり顔を出さない。実の娘ではないから遠慮があるのだろう。それは寂しくもあったが、二人が距離を置いて暮らしている事に私は満足していた。…のだが。 「舞、彼氏できたって」 そう唯から聞かされて、私は驚いた。 「舞に会ったの?」 「しょっちゅう会ってるよ」 私の目論見はあっさりと破綻していたらしい。
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懐かしい既視感に鳥肌がたつ。そんな動揺を悟られないように私は努めて明るく聞いた。 「唯はどうなの?」 「私は…まだ…。」 言い淀む娘の姿に母親の勘が働いてしまった。妹の姿が、脳裏にちらつく。 「好きな人がいるの…?」 俯いて、涙を堪えきれずに頷くのは誰よりも幸福であることを願ってきた「私」とあの人の子だ。 「…大丈夫。お母さんがなんとかしてあげるからね。」 もう半分こなんてしないわ。
- 完 -