ホームの真ん中。 僕は彼女の背中を、思い切り突き飛ばした。 不愉快な金属音とヘッドホンから漏れる音が混ざり合う。 目を見開いた彼女が、轟音に掻き消された。 「 」 最期に彼女が何を口にしたのか、僕は知らない。
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あれから眠れない日が続く。 「どうして貴方が」 彼女はそう口にしたかもしれない。 俺のことを信じ、疑わなかった。 俺にだって訳はある。 けれども、もう、すでに後の祭りだった。 いや、彼女はもっと別のことを口にしてたかもしれない。言葉にはなりえなかった、今際に掻き消された音。
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罪悪感なんてこれっぽっちもなかった だから、ためらうこともなかった だってそうだろ? 君が僕の言うこと聞かないから 君がメールを無視するから 君が手をつないでくれないから 君が他の男と仲良くするから 君が僕を避けるから 君は僕の彼女だったんだ なんで? 言うことを聞かない彼女はただの人形 だからやった 君が悪いんだ 君が 君が 君が 君が 君が 君が 君が 君が 君が 君が
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そうだよ僕はいつだって君の事を考えて愛していたんだ。なのに君はどうして僕を避けるんだよ。ひどいじゃないか!君のすべてを愛していたんだ。君が命じればどんな汚い事でも出来るんだ。 なのにどうして… だからか…あの男が君をたぶらかしたんだね あの男さえ居なければ… でも君は穢れる事は無いよ ずっと僕のそばに居ればいい 形なんて関係無い 兎にも角にもあいつを消さなければ そうあいつがすべての元凶だ!!!
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よし、殺しにいこう。
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どうやって殺してやろう。だがあの男を殺したために警察に捕まってもつまらない。まずはあの男の行動パターンを把握して、念入りに計画を立てよう。 月曜、出勤。直帰。 火曜、出勤。昼は焼肉定食を食べていた。 水曜、出勤。帰りに飲み屋へ。 木曜、出勤。帰りにジムへ。 金曜、出勤。バジャマがピンク。 土曜、休み。私服でスーパーへ。 日曜、休み。一日中テレビを見ていた。 一週間あとをつけて思ったことがある。
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彼はヘビースモーカーで、二階のワンルームの部屋に住む彼は、換気のために奥の窓をいつも開いたままにしているらしいことを突き止めた。 換気扇は長らく掃除されていなくて機能していないのだろう。 決行するなら人目に付く訳にはいかないので、やるなら彼の部屋がいいだろう。裏の建物からなら、どうやらベランダへ、そしてベランダからその開いた窓へ、侵入はできそうだ。 問題は、どうするか、なのだが。
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殺し方は絞殺、撲殺が一番ベタだろう。 しかし、犯人が分かりにくくするには…自殺に見せかけるのがいい。 そうなると風呂場で溺死…よし、気を失わせてから溺死だ。 溺死させるには気を失わせなければ… 細い注射器などで薬を打とう。 あとが残らないように。 手に入らないなら何かで殴ろう。 打撲痕を残すワケにはいかないが…まぁ仕方ない。 さて、次は…
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あー名案が浮かばない。 ジムでも行って一汗流してくるか。 ん、ジム?待てよ。 確か奴も木曜にジムに行っている。 奴のジムは桜駅が最寄りだ。そう僕が彼女を手にかけた駅。 そこしかない、心中に見せかけるんだ。 「彼女を追っての自殺」悪くない。 「伸治さん!」奴が何故最後に僕の名前呼んだのか? 奴が彼女の兄と知るまで時間はかからなかった。 彼女も兄と同じ言葉を発して逝ったに違いない•••
- 完 -