痛い、痛いよ やめて、痛いよ。 叩かないで、物を投げないで。 私達…“親友”だったじゃん やめて、私を “虐めないで”
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いつからこんな関係になってしまったの? どうしてこんな関係になってしまったの? 私が悪いの? 君が悪いの? もう...分からないよ
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涙が零れる。 物を投げられて、痛いからじゃない。 一緒に過ごした楽しい日々を思い出して泣いてるの。 あなたの事を私が一番よく知ってると思ってた。 どんな時も私に笑いかけて、励ましてくれたじゃない。 そんなあなたが、こんな事をするなんて。 違う、あなたはこんな人じゃない、 きっと何かに騙されて操られてる。 私が助けてあげなくちゃ 私が… 私は涙をふいて彼女に物を投げ返す。 「ねぇ、あなたは…」
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「ねぇ、あなたは誰?」 私の問いかけに無言で答える。 否、暴力が答えか。 "私の知ってるあなたでないなら、 あなたの皮を被った他人なのね。" 私は心で小さく決意を固める。 そこからが私の逆転劇。
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物を投げてくるのも無視し、立ち上がってあなたの席へ向かう。 置いてあった筆箱をぶちまけて、カッターを握り、手首を切る。 流れた。 あなたの机に、血が。 「なにしてんのよ!」 慌てて止めにきたあなたに、私はキスをした。あなた、唖然。周り、どんびき。 「私が憎い?嫌い?」 口を離して尋ねた。 当たり前でしょ、と目も合わせずに言うあなたに私は言った。 「じゃあ、私もあなたが嫌い。」
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一瞬、何かを言いかけて口ごもったあなたの目の前で、私は腕をざくざくと切り続ける。 不思議と、痛みは感じない。流れる血が、床を赤く染めてゆく。 「いいかげんにしなよ!」 必死にカッターを奪い取ろうとするあなたの顔は、まるで泣き出す寸前みたい。 あなたの飼ってたうさぎが死んだとき、私が先輩にふられたとき、同じ表情をしてたよね。肩にこつんと額をあてて見られないようにしてたけど、私、ずっと気づいてたよ。
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「嘘だよ」 と私は言う。 「嘘つき。私も、あなたも」 「何よ、何のことよ。あんた頭おかしいんじゃないの!?」 やっぱり、他人なんかじゃない。あなたは、私の知ってる『あなた』だよ。 「大丈夫」 血まみれの手で、近づいたあなたの手を握りしめる。思わず逃げようとする手を、絶対離さない。 温もりが伝わってくる。いつも、こうやって一緒に帰ったね。そこからこんなところまで来てしまった。 私は思い出す。
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私達の仲がこんなにも捩れてしまったのは、ある些細な噂が原因。 あなたがずっと想い続けている"彼"が、私を好きだっていう噂。 私はなんとも思ってないって言ったけど、私の言葉はもうあなたに届かなかった。 今なら届くかな? 「嘘ついてごめんね。」 今にも泣き出しそうなあなたに、私は微笑む。 「私はあなたが大好き。」 私が好きなのは"彼"じゃない。親友のあなただよ。 涙が頬を流れた。
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涙の理由はわからない。 もう、そんなことどうでもいい。 「わたし……っ、ずっとあなたが好きで……っ」 涙がどんどん溢れる。言葉が紡げない。 「それでもっ……伝え、られなくて……っ」 あなたの瞳にも涙が溢れている。 あなたの、誰にも聴こえないくらいの微かな声。 でも、私は確かに聴いた。 “嘘ついてごめん。 ……私も、あなたのことずっと好きだったよ。” あの頃と同じ、優しい笑顔で。
- 完 -