未来の遺産

「おーい、何かあったかー?」 遺跡の中に入っていった相棒に声をかける。 「いや、ガラクタレベルの骨董品しかねぇな」 そう言って相棒は俺に向かって手のひらほどの大きさの金属片を投げた。 落としそうになりながらも、危うくキャッチする。 「あー、これかぁ…。確か教科書に載ってたよな、なんだっけ?」 再び相棒に呼び掛ける。 「えーっと、確か『スマホ』とか言ったか?」 遺跡から埃だらけの相棒が出てくる。

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「そ、確か正式名称は『スマートフォン』。所謂音声通信機の類らしいが、余計な機能ばっかり付いてて使い方はよく分からん」 それだけ言うと相棒はまた遺跡の中を漁り始める。俺は『スマホ』を少し弄ってみるが、反応は無い。 「手を使わなきゃ通信も出来ねえのか、随分と不便な時代だったんだな」 「当時は、この国の殆どの人間が所持していたらしいけどなー、っと」 相棒がまた一つ何かを投げてきた。 「今度は何だ?」

Felicia

8年前

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「薬のカプセルだ。古代に処方された風邪薬らしい」 「ほう、昔もあったんだな。で、何で書いてあるんだ?」 「朝晩5日間必ず飲めって書いてある。成分も抗生物質で出来てるらしい」 「ふ〜ん、随分面倒臭いもの使ってたんだな」 「ああ。今じゃ癌でさえもマイクロマシンをたった1回飲むだけですぐ治っちまうのにな」 「全くだ」 と、俺が笑っていると、また相棒が何かを投げてきた。 「ん?何だこれ…?」

hyper

8年前

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「本だ」 「分厚いな。ん?でも数字ばっかりだよ」 「どれ?あ、これ時間だよ。上り?下り?あー思い出した。これも教科書で見たよ。人を箱に入れて移動するやつ」 「うん、うん。そうだ!これは…」 「「時刻表」」 「すげーな。これ見て移動してたのか?」 「今はテレポッドに入って行き先を言えば瞬時に移動出来るのに」 ご苦労様と言いながら感心してると、また相棒が何かを投げてきた。 「また、何だ?」

blue

8年前

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「…っデカ!?なん…化け物!?」 飛来した黒々と巨大なものを払いのける。 見た目に反して、軽い手応えだった。 「落ち着けって。キグルミってやつだよ」 「キグルミ!あの、トクサツってやつか?」 「今では脳内イメージで映像作れるからな。 しかし、これはこれで手が込んでる」 グタッとしたそれの目玉を突きながら感心する。 不思議と愛嬌がある。 「何してたんだ。ここの住人」 「さあな、こんなのあったぞ」

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相棒がゴソゴソと地面から何かを持ち上げた。 「なんだその紐の塊は?」 「電気エネルギーを伝達するケーブルの類だろうな」 相棒の手元から壁伝いにかけて何本かケーブルが伸びていた。 「電力ケーブルか。これも教科書にあった。有線接続だっけ」 「これが配線されたままなら、辿れば電源装置があるはずだ」 相棒のニヤリとした笑みに釣られ、俺も表情を変えた。 「まさか電源が生きてるなんてこと、無いよな?」

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「無いとは思うけど、そこはそれ、ちゃんと確認しなきゃな」 「それもそうだな。エネルギーの事となると俺も中へ入らなきゃいけないわけだ?」 「もちろん、そうなる。お前が専門家だからな〜」 「そうすると、ここの見張りはどうする? 遺跡泥棒がバレるとヤバいぞ⁉︎」 「そのキグルミを立たせて誰かが触ったら音がするようにしとけばどうだ?」 「じゃあ、そうしよう」 こうしてふたりで遺跡の奥へと進んでいった。

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相棒が手繰った電力ケーブルは、遺跡の天井に取りつけられた電源装置に接続されていた。 「専門家、頼むぜ」 「任せろ」 俺は特殊コンタクトレンズで装置をスキャンし、脳内CPUに情報を放り込む。 「結果が出た!こいつ使えるぞ!」 「よし!」 「解析結果通りイジってみる。こりゃ収穫だ!」 だが次の瞬間、地面が急に割れ、横に滑り出す。 「なんだ⁉︎」 「まさかこれ……古代の箱?」

Joi

6年前

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かつて別の階へ移動する際に使っていた、エレベーターという機械だ。どうやら横倒しになっていたらしい。 「うわっ」 俺と相棒はそのまま箱の中へ落下した。箱は扉を閉ざし、動き出す。 やがてたどり着いたのは、“花”という生き物が無数に咲き誇る野原だった。 「ここ、外か? 花なんて初めて見たぜ」 「……俺もだ。生まれてこの方、ずっと地下で暮らしてたからな」 俺達は時が経つのも忘れ、その光景に魅入っていた。

5年前

- 完 -