朝の雨は好きだった。 すべてを洗い流してくれるみたいで。
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澄んだ新しい空気を胸いっぱいに吸い込み、しとしと降る雨をしばらく眺めていた。
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雨粒は光を取り入れ互いに反射し、一瞬にして “雨粒” という短い人生を終えてゆく。
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やがて雨粒が力尽きたその場所に、ひとつひとつの雫が束となり、水溜りという名の全く新しい世界を創る。
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水溜りは今まであった世界を映す。雨が止み、キラキラと輝いて見える世界はまるで違って見える。 時間が経つにつれてだんだんと小さくなっていく。水分は蒸発し青く晴れた空に向かって昇っていく。
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晴れた空の青、沈みゆく夕陽の赤、青々と茂る樹々の緑、そして行きかう人々の影。 そこに日常が流れていたとしても、水溜りが写す世界はもう二度と戻らない。 一粒一粒にその色をにじませて青い空へと登って行く。登って行く時は無色透明。 でも、時々、色をつけることがある。
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太陽の光たちを体に浴びて一粒一粒がいろんな色に染まっていく。 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。 その光景はときに人々を感動させ、ときに人々の日常の景色に溶け込んでいる。 ここでも、水分はまた以前のように夢をみせていく。 小さな水の粒たちはさらにさらに登っていく。 体を冷たく冷やすまで。
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色が無くなると、そこには元来の水の純粋さが美しさに変わってゆく。 互いに寄り添いあい、くっつきあい、形を変えてゆく。そうしてほろほろと空からまたこぼれ落ちて来るのだ。 しゃらん、と音が鳴らないのが不思議なくらいそっと落ちてきた氷の粒たちは、世界を白色のキャンパスのように染め上げる。 見事なのは、その結晶が解けた後なのだ。 氷の粒の中から、緑の若葉がふるりと芽を出す。
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若葉は朝の雨を受ける。 次に待つ命にタスキを渡す。 雨は巡る。 空をいつも泳いでいる雲が連れてくる。 大気の海をいつも泳ぐ。 風が流す。 海流にも似ている。 地上の海とも言える。 何処にでも、潜んでいる。 身体にもあるし。 涙の時もある。 汗の時もある。 。。。 。 。 。 。 。 。 。 。 。 。 。。 。 。 。 やっぱり今も 朝に降る雨が 好きだ。 。 。
- 完 -