ちっちゃな神様

俺の知り合いに、「神様」がいる。 今、俺のことを変なやつだと思っただろう。安心してくれ、妙な宗教を勧める気はない。俺の知り合いの神様は、まあまあ可愛い女の子だ。最初は俺もぎょっとしたけど、免許証にでかでかと「神 様」と書いてあるのを見せられたときには、思わず笑ってしまった。 その神様が今、俺の部屋にいる。俺のソファで、ビールをあおっている。 なんでこんなことになったのか、話は三日前に遡る。

lalalacco

13年前

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その日、俺はいつも通り大学から帰宅していた。教師に勧められるまま選んだ大学は一年も経たない内につまらないものとして一日に組み込まれていた。 初めは都会の雰囲気と新しい日々を楽しめていたが、今では汚れた空気で鈍く光る夕焼けも、地面を影で隠す幾つもの塔も気に入らなかった。 辟易しながら帰り道の公園沿いを歩いていると背後から上ずった俺を呼ぶ声がした。振り返るとステンレスの遊具の向こうに「神様」がいた。

あひる

13年前

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「君!そこの君!君だ君! 私は…その…神なんだが…。 あぁ、警戒はよしてくれたまえ。 そうだな、言い方が良くなかった。 本名は神 様 と書いてかみの よう!」 「ところで引き留めた理由だが…。 私を泊めてくれないか…?」 「勧誘なら他をあたってくれ」 「待ってくれ!行かないでくれ! おーい、おーい!」 やってられない…。厄日だ。 神様だって?冗談じゃない…。 ただの女の子じゃないか…。

13年前

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足速に公園を通り過ぎ、自宅に向かう。遠くでまだ俺を呼び続ける声。差し掛かる角を曲がろうとすると同時に驚愕。 神 様 登 場。 「酷いぞっ!少しは話を聞いてくれてもいいではないかっ!」『えぇっ!?』「君には私の様な慈愛は無いのかっ!」 突然の事に混乱し逃げ出そうと踵を返すが、ヒザカックンらしき技をくらい、転倒。 そして見事に、俺は神 様に捕まってしまった。

13年前

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不覚にも神様の柔らかい手と優しい香りに一瞬、ニヤついてしまった。

noname

13年前

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だが理性はたもったままだった。 なんせ神様の胸板はうすくてかたかったから。 どうせなら巨乳に顔面うずくまっ、、ニヤニヤ 「何をニヤニヤしておる、さっさと家につれてかんか」 そうして神様に急かされて家にかえったのだった。

noname

13年前

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「あのー、家出中とかですか?」 俺の部屋のベッドの上にどかっと座り、出したばかりのお茶を啜っている神様に尋ねてみる。 「ほう。なかなかうまいではないか」 「あの聞いてます?てか学生?仕事は?まさかニート?」 神様は俺の質問にはいっさい答えず、部屋をぐるりと見渡す。 「小さな部屋だが、泊めてくれる恩は返さなくてはな。一つ願いをかなえてやる。何がいい?」 神様は真剣な眼差しでやっと俺を見てくれた。

Mink

13年前

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当たり前だが、まだこの子が本物の神様だとは思ってもいなかった。よくわからないうちに部屋に入れてしまったけど、こんなことが近所に知れたら俺は変質者にされてしまう。泊めるなんてとんでもない話だ。 「ハイハイ、神様ごっこはもう終わり。送ってくから、君の本当の名前と住所は?」 両手を挙げ降参するような素振りをする。すると神様は細めた目でじっと俺を見つめ、こう答えた。 「欲がないな。本当にそれで良いのか?」

saøto

13年前

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その視線は神と呼ぶに相応しい、見透かしような目つきだった。 「欲はあるさ、いっぱいな。ただ、どれを叶えても所詮虚しいんだよ、分かるか?俺だって、俺だって……幸せに生きたいさ……」自然と本音が口から零れていた。 「それが願いでいいのかな?では、叶えよう」 次の朝、別段これといった変化は…… あった。 「やぁ、君。おはよう」 ……どうやら、俺の願いは叶ったらしい。 “誰かと一緒にいたい”

ルーク

13年前

- 完 -