7のルール

朝から直射日光にさらされ続けた線路の敷石からゆらゆらと陽炎が登る。抜けるような青空。八月の東京は真夏日の連続記録を更新していた。 風のひとつでも吹いてくれればだいぶいいんだけど。僕はタオル地のハンカチで汗を拭うと、遅れている電車が来る先を眺めた。 その時ホームにアナウンスが流れた。 「次のノベルは、9両編成の“しりとり”ノベルです。お間違えのないよう、最後の文字からパラグラフをお続け下さい」

旅人.

13年前

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一瞬、意味がわからなかった。 駅員は不明瞭なイントネーションでうにゃうにゃとアナウンスしている。まあ良い。どうせ日頃からアナウンスは頼りにしていない。 漸くホームに滑り込んできた電車。ドアが開くのを待つ。案外今日はマシな方かな。満員電車度60%と言うところか。 絶対に痴漢に間違われないよう、鞄を胸元に持ちかえる。できれば女性の近くには立ちたくない。ヒールで踏まれると痛いし、女性はふらつく。

- 2 -

雲が次々に形を変えながら痛いほどの青空を漂う。車窓から見える景色にはその雲の影がくっきりと映り、その上に在る太陽が威張っているのを感じ、僕はため息をついた。 今日もあいつ、くるのかな 会いたくないな あいつは僕の不規則な帰宅時間をどうやってか察知して僕の部屋にくる。 僕の帰宅後、きっかり7分後に。 電車が駅に近づき、ゆっくり速度を落とす。見慣れた駅名が目に入り、僕はドアのほうに体を向けた。

naomi

13年前

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「ただいま」 「あら、おかえり」 目を見開く。ただいま、というのは一人暮らしの俺には返事のかえってくるものではないはずで、ただの習慣だった。 こいつと俺は友人でも知人ですらない。 ただ俺の部屋に俺の帰宅七分後にくる。 それだけだったのに何故今こいつは俺の部屋にいるのだ?合鍵を見つけられたのか? 七分後じゃないのか? そいつは俺の考えを見透かしたかのように笑った。 「七分前にきたのよ」

Iku

13年前

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「よくもそんな笑顔で言えるもんだ。家に勝手に上がり込み!7分前に来ただ?ふざけるな!7分後だってこっちは毎日迷惑してんだ!今日はハッキリと言うぞ!だいたい、あんたは誰だ?え?こんな事して楽しいか?あんたのこの奇行が俺にどんだけストレスだと思う!もういい加減に付きまとうのはやめてくれ!」 本来、穏和な性格の僕だが我慢の限界だった。 でも、届かない願いだった。こいつは言った。「あなた、疲れてるのね」

真月乃

13年前

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寝転がりながらそいつは言った。おい、そこは僕のベッドだ。宿主に断らずベッドに寝転がるとはどういった了見だ。 寝転がるならせめてソファにしろ。いやお前なんか床で十分だ。 ってそうじゃない。 「ああ。僕は疲れてるよ!お前のせいでな!いいか七分いないに出ていけ!さもないと警察を呼ぶからな!」

ハイリ

13年前

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「なんですって」 そいつは大仰に驚いて見せた。 それから口に手を当てたまま、ニョホホと笑い出した。 「そう熱くならないで」 そいつは冷凍庫からアイスを取り出した。 「残り四つ。二人で二つずつ分ければちょうどいい」 愛しのチョコミントアイスだった。そいつはこちらの食糧事情も認知済みなのだ。 「今日は暑かったね」 「ふざけるな」 でてけ、でてけ、と勢いばかりに玄関から追い出した。外で何か言っている。

aoto

13年前

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「ルールには逆らえないのよ…」 何がルールだ、このストーカーが。 今度勝手に上がったら本当に警察呼ぶぞ。 僕は玄関の鍵をかけ、やれやれと思いながら部屋に戻った。 ところが、その7分後…。 なぜか気分が落ち着かなくなってきた。 あいつが気になるのか? いや、そうじゃない。 何かわからないが、この部屋自体が気になるんだ。 いつもと変わらない風景なのに、次第に物凄い緊張感に見舞われた。

hyper

13年前

- 8 -

多分これは警察に行くべきでは、、など考える内にその緊張感がMAXになり ハッ!と時計を見た。 7時7分・・・ 七、7だ・・・ カレンダーを見た。 7日・・・ 気持ち悪い。 うぅ.... 僕は目を覚ました。気絶したのか? 朝日が差し込む。 ヤバイ仕事に行かねば、 支度をし持物チェック中電話がかかる。 「あたし、これからこの時間にするわ、ふふふ」 家を出る七分前だった。

mion

13年前

- 完 -