死のうかな ふと口から出た。 止めてほしかったけど、今はもうそんなこと求めてない。ただもう何もなかったときに戻りたい。この痛みが生なら、もう息もしたくない。痛みかどうかも麻痺してる。 生きて行くことは、一生人と関わるってこと。そばに家族もいない。家族以外心を打ち明けられる人はいない。 だからって今すぐ逃げ出すことも出来ない。一度足を踏み入れたら、記憶と共に生きなきゃならない。
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腕の脈を切った。 血がどくどく流れる。あぁやっちゃった。本当に死ぬんだ。ふと、過去が見えてきた。
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ー おかぁさぁーん!! おとぉさぁぁん!! 子供の泣き声。 ー う、うぇ、っ死なないでぇ、、、 辺り一面の鮮血。 動かない父と母。 ー 近所で一家惨殺だって! ー あれ、娘は助かったそうだよ。 ー そうなんだ?なんでも犯人は隣人らしいぜ。 いつも優しかったおばちゃん。 ー どこに隠れてるんだぁぁい? 狂気に歪んだ顔。 私はあれから「知っている人」が怖い。
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ああ、そうだ。私には家族はいなかった。 生きていくことに疲れて、何が現実なのかわからなくなってる。 湯船に片手を。 赤が。溢れる。 知ってる人が怖い。 わけ知り顔のカウンセラーも怖い。 あのとき、私だけ生き残ったことに必ず意味があるなんて、みんな勝手なことばかり。 死なせて。生きてる意味はない。
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俺はもう、何もかも嫌になったんだ。 人関わること、全てに‥。 最近は、眠れないから、睡眠導入剤を飲んでいる‥。 これを、酒で飲めば死ねるかな。 楽になりたい‥。 飲んでやろうか‥。 と飲んでしまった。 そこからの意識はない‥。 ずっと、夢の中をさまよっている‥。
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さまよった夢の中でいろんな 事がメリーゴーランドの様に 回り、遠い記憶からやがて 覚めることのない夢の世界に 行ったような気がした。。
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さようなら。 遠退いた意識に、 そしてこの世界に、 私は最後の別れを告げた。 死ねば何も苦しまなくて済むのだ。 悲しいことも、辛いことも、全て無くなる。 とめどない人間関係のごたごたで思い悩む必要も、これ以上無い。もう二度と。 ああ、なんて幸せなんだろう。死ぬってことは。 さ よ う な 私の頭が意識を完全に手放す寸前。 誰かの顔を、見た気がした。
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父と母。 ありがちだけど、確かにその顔だった。 なんだ、生きてるんじゃないか。 今まで何処に行ってたの? 寂しかったんだからね。 待って。 行かないで。 私を一人にしないで。 後ろ姿が遠ざかる。 あぁ、やっぱり私には何もない。 美しい花畑を走る。 蝶が来るのを待ちながら、何処までも。 こっちに来てはダメ 私を置いてけぼりにした父と母が叫んでいる。 今そっちに行くからね。
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お母さんへ 覚えてるよ。自害は地獄へ堕ちるって教えてくれたのはお母さんだったね。私ね、地獄に堕ちたよ。地獄で泣いたの、怖かったから。これから私はどうなるんだろうって。気がついたら私、裸んぼで身体中血だらけだったよ。そしてね、私を見てある人が言ったの。「おめでとうございます、元気な男の子ですよ」って。どうしよう、私、次は男の子になっちゃった。またお母さんがお母さんだといいな。あとで会おうね。
- 完 -