私の知らないお姉ちゃん

私はお姉ちゃんが嫌いだ。 お姉ちゃんは私よりも不器用である。何より女の子っぽくないし、生まれてこの方彼氏もいない。料理は出来ないし、家事もしない。 「ねえ、あみちゃん。あのね!わたしね。上条さん好きになっちゃった」 お姉ちゃんは馬鹿だ。考え方が単純で、すぐ泣いて、すぐ笑う。 私はお姉ちゃんが嫌いだ。 同じ人を好きになったお姉ちゃんが嫌いだ。

はるあ

13年前

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「…上条さん?」 「そう、上条さん! 実は前からかっこいいなと思ってたんだよね。 どうかな、上条さんって私みたいなのタイプかな?」 謙遜しているようで、全く謙遜していない自信に満ちた質問に私は心の中で姉のほっぺたをつねる。 上条さんは隣の家に住む大学生。 詳しいことはよく知らないけれど、私も密かに想いを寄せていた。 私と上条さんが話したのは、あの時一度きり。 あれは、桜の咲く時期のこと。

ema

13年前

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私は高校生になったばかりで、新品の制服を見た上条さんは、よく似合っている、と褒めてくれた。 その笑顔があんまり素敵だったから、どぎまぎしながらたった一言、ありがとうございます、と言うのが精一杯だった。 「ねえ、ちょっと!聞いてるの?」 すこし怒ったようなお姉ちゃんの声で、現実に引き戻される。 「あーあ、上条さん、私とデートしてくれないかなあ…」 うっとりした瞳のまま、お姉ちゃんは自室へ戻った。

13年前

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あくる日、いつものように通学路を歩いていると、聞き覚えのある声がする。 道の反対側に目を向けると 楽しげに会話する、お姉ちゃんと……上条さん。 なんで!?どうして!? なんで、平気で上条さんと話せるの!?私は……いつも見つめているだけだっていうのに。 やっぱりお姉ちゃんは嫌い。恥じらいなんてないんだから。 私の視界が涙でみるみるぼやけてくる。

ノナメ。

13年前

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どうやって家に帰ったのだろう。 私が部屋で膝を抱えていると、お姉ちゃんが帰ってきた。楽しそうに鼻歌なんか歌っている。 「……何か、いいことでもあった?」 皮肉めいた私の質問に、お姉ちゃんはしばらく答えなかった。 「ん~。やっぱり、ないしょ」 「なんで? 教えてくれたっていいじゃない」 自然と声が刺々しくなる。 すると、お姉ちゃんは

noname

13年前

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「大丈夫、きっとうまくいく!」 「なにそれ…」 私の怒りは更に大きくなる。 私の気持ちも知らないで呑気に笑うお姉ちゃんが許せなかった。私は怒鳴る。 「私の方がお姉ちゃんよりずっと前から上条さんの事好きだったのに! なんで…私の気持ちなんて分からないんでしょお姉ちゃんは!」 すると意外な返事が帰ってくる。 「よかった、やっと、その言葉を聞けて。 ねぇ、どうしてそれを上条さんに言えないの?」

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「…え?」 「好きなら好きって言えばいいじゃない、 気持ちは言わなきゃ伝わらないよ?」 驚いて二の句が告げない私に、やっぱりなにも考えてないであろう姉は軽々とそんなことを言う。 言えるものか。一度しか話したことのない、ただの隣人の私が。 だいたい、私の気持ちを知っていて、姉が上条さんを好きになったとしたら、 …やっぱり、きらいだ。 「なに考えてんの、お姉ちゃん」

いつき

13年前

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「何って私は何も?」 あー嫌だ、これだけわたしが感情を晒してもそんな事しか言えないお姉ちゃんが大っ嫌い。 その時だった。玄関に誰かが来た様子を感じ、グイグイっと涙と鼻水を拭き、ドスドスと玄関に出て行った、とにかく今はこのばから去りたい。 ところが、玄関でぐしゃぐしゃの顔のわたしをまっていたのは彼、上条さんだったのだ。 「こんにちわ、お姉さんいるかな?」 そんな笑顔で見ないで!!

バーバラ

13年前

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お姉ちゃんがきた 「…話って何かな?」 え? 「あ、話って、この子が言いたいことあるんだ」 えー⁈ お姉ちゃんが笑顔で私にウィンクする。 私はほとんど勢いで言った。 「初めて話した時から、ずっとずっと好きでした!」 —私の恋は失敗しちゃった。お姉ちゃん、私の為にあんなお芝居しなくても良いのに。詰めが甘かったけどね。 なんにもできないけど、ちょっぴりお節介なお姉ちゃんが、 私は大好き。

N.YOHAKU

13年前

- 完 -