25769483259854785578254156980758023541870869325412878956325585879633581425442580858086317200985475236451515628546958708593546431794618073552525489665484545219760101303042816 んんっゴホッ… 以上これが君の遺伝子情報だ
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「えっと……」 博士に手渡された紙に目を落とし、首を傾げる。 ただの数字の羅列にしか見えないこれが遺伝子情報だと言われても、いまいちピンとこなかった。 「で、これがそこにいる犬の遺伝子情報だ」 もう一枚紙を渡される。そこには先ほどと同じ数字が並んでいた。完全に一致している。 「どういうことです?」 足元で俺を見上げる犬を一瞥して、博士にそう問いかける。
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「君とその犬は、双子だ」 キッパリと言い切った博士の表情は真面目そのもので冗談をいっている風ではない。 「親子でもそこまで一致することはない。このデータが示す結論はただ一つ。君たちは一卵性双生児なのだよ」 そう言われて納得できるはずもない。 「そもそも種族が違うじゃありませんか。こんなに似てない双子なんてあり得ない」 少しの沈黙の後、博士が口を開く。 「いや…よく見るとほら、目なんてそっくり」
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「ふ、ふざけないでください!」 意味が全く分からない。なぜ俺とこの犬が双子なのだ。 俺は足下に座る犬の目を見つめる。可愛いことは可愛い。 しかし、俺と似ているとは思えない……こともない? いや、似てないだろ。 「あの……もし本当に双子なら、俺らはどうやって生まれたんですか?」 俺の質問に、博士はしばらく考え込んだ。 「そんなこと、見てないから知らん」
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博士の言葉に俺はずっこけた。 …そして、驚いた。 俺がずっこけた時、なんと犬もずっこけていたのだ! この犬、場の雰囲気が分かるのか? それとも、双子だから同じ反応をした? …まさか。俺の真似をしただけだろう。 ただ、ずっこけた反応が気に入った。博士がちょうど「もう少し調べるから待っててくれ」と言い残して出たので、双子なんたらは抜きにして、俺は犬を外に連れ出して小一時間遊んだ。
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「…双子、ねぇ」 しかも犬と。 そんなことあり得るんだろうか。 確かに茶色の毛は俺にそっくりだし、脚の短さは…いやこれ以上はやめておこう。俺が泣く。 話を戻そう。 先程この犬は、俺と一緒にずっこけたのだ。 まさか、まさかとは思うが。 …俺の言葉が分かったりするのだろうか。 ボールをとって来させた犬を、膝に抱きかかえる。…なわけないか。何考えてんだ俺…。 「「はぁ…」」 !?
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俺は腰を抜かした。口を開け、尻もちをついていると、 「聞こえるようだな俺の声が」犬が再び喋る。「だが、そう驚くな。俺はお前なんだから」 何一つ飲み込めなかったが、俺は冷静に訊いた。「どういうことだ?」 「いいか、良く聞け」犬は理路整然と言う。「博士は一卵性双生児だと言ったが、あれは間違いだ。遺伝子が同じであるという事実からはもうひとつの可能性が導かれるだろーーそう、俺たちはクローンの関係なのさ」
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呆気に取られ立ちすくむ俺の元に博士が血相を変えて走り寄って来た。「落ち着いて聞いてくれ!君たちは双子では無い!君たちはクローンの関係なんだ!」 「それは解ったから何故そうなったかを説明して下さい!」「解ったって君…まぁいい。君は以前私の研究で自身の体細胞を抽出した事があったろ?その体細胞が別の研究で クローン犬を作る時に誤って犬の受精卵に混入してしまった、というところかな。」 …気が遠くなってきた
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博士はひとしきり騒いだあと、新しい研究対象となった一人と一匹を好奇心いっぱいの目で見ながらゴソゴソとメモを取っている。 隣に座るもう一人…………否、もう一匹の僕と目があった。お互いにうんざりした顔をしているのが、相手の目を見るだけで解ってしまう。 僕ともう一匹の僕との新しい毎日はどうやら研究一色の様相を呈している。 『僕』は笑い合った。 まあこんな毎日も悪くないかもね、と。
- 完 -