昼下がり、片想い

私には好きな女の子がいる。 格好良くて、気配りが出来て、とっても面白い、歌とダンスが上手な子。 おまけに裏表が無くて誰とでも友達になれちゃうから、本当に惚れ惚れしちゃう。 そう……誰とでも。 私と仲がいいのも、あの子が気さくで友達思いだから。 嫌いにならないでいてくれている。 それだけ。 重いため息が漏れて、自己嫌悪に陥った。 どうしたらあの子の恋人になれるだろう……?

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私は今まで、いわゆるレズビアンでは無いと思っていたし、好きな男の子だっていたこともあるけど。 あの子に出会ってから、私は変わった。 あの子のために、少しでもあの子の隣にふさわしい女の子になれるように努力した。 見た目には自信が持てないから、まずは中身から。 1人ぼっちの子には声をかけるようにしたし、みんなに平等に、優しく接しているつもり。 でもあの子は、そんな私に気づかない。

伊藤

7年前

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まずは、友達でいい。 最初は友達でも、そのまま努力を続ければ、あの子の1番になれる。 1番好きな人、じゃなくて良い、 1番の友達でも、構わないの。 まずは、あの子の1番になりたいな。 そう思って頑張っても、あの子は皆に平等。皆に優しい。 私は、あの子の1番には、なれないのかな。 いくら頑張っても、無駄、なのかな。

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私には時間が足りない。 膨大な時間を詰め込んでおける場所があるのなら、私はもっと、もっと、ギュウギュウに詰め込むのに。 「いこ」 あの子はやおらに立ち上がった。昼休み、珍しく中庭で二人きり、昼食を食べていた。 途端に目の前にあの子のぬめやかな肌をした脚が現れる。どういうわけか直視出来ず、目を逸らしてあの子に倣って立ち上がる。日差しのせいか、貧血のせいか、くらくらと立ちくらむ。 「ねえ、」

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「ねえ、大丈夫…じゃなさそうね。」 平衡感覚を失った私は地面へと吸い込まれていった。地面とぶつかる前に彼女は優しく私を捕まえてくれた。衝突の恐怖から解放され意識を失いそうになっていた。 「おーい……返事なしっと。全くめんどくさいなぁ。保健室まで運ぶこっちの身にもなれっつーの。」 彼女の口からそんな言葉が溢れるはずがない。 幻聴に決まってる。 きっとそれも日差しのせいか、貧血のせい。

ゆま

7年前

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「ありがとうね」 「いえいえ全然。……大丈夫ですかね?顔色悪いしすごく心配」 そんな声が遠くから聞こえる。 ベッドの上で私は先程の夢を思い出していた。 『めんどくさいなぁ』 頭の中にあの子の声が響く。あんな夢を見てしまうなんて一体私はどうしたと言うのだろう。 「あら、目が覚めた?」 保健の先生にお礼を言って少し休ませてもらった。今、あの子と顔を合わせるのは少し恐い。 私は初めての感情に驚いた。

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「ねぇ、大丈夫だった?」 今日は、今日だけは、なるべく会いたくなかった。 明日にはお礼をいうから、今日は隠れていたかったのに、彼女は心配そうに帰ろうとする私に駆け寄ってくる。 でも心では、私をめんどくさく思ってるんじゃないかと疑うなんて、どうかしてる。 「うん、おかげさまで」 ぎこちなく笑って、さっさと逃げようとする私を彼女の腕が引き止めた。 今日に限って、彼女は私に用があるのかもしれない。

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「どうして、逃げるの」 「私、別に逃げてなんか⋯⋯」 「嘘」 心なしかいつもより低く感じる彼女の声と共に、私の腕を掴む彼女の手の力が強まった。 キシ、と骨が軋む痛みに思わず顔の筋肉が強張る。 でもその痛みが、彼女を目の前にしてまだどこか夢心地だった私を、現実に引き戻す。 水をかぶったみたいに、頭が冷えた。 怒ってる?嫌われた?何で、 「ねえ、」 「っ、な、に」 「⋯⋯、多分勘違いしてる」

松田

6年前

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彼女の瞳が、気づけば目の前にあった。 柔らかいものが唇に触れた。 「…戻ろうか。」 一呼吸置いて彼女が切り出す。 私は、初恋をした少年のように黙り込む。 手を引かれて立ち上がったけど、その手はすぐに解かれた。 無言で彼女の後をついて行く。 ──ねぇ、聞きたいことがたくさんあるよ。 彼女はちょっとだけ振り返って、目の端で私を見た。 ──ねぇ今、笑ってたよね? 焦燥を抱え、廊下は長い。

- 完 -