TRAIN-TRAIN
ぼくは都内を走る電車だ。めったに壊れないのが自慢だ。ちなみに両親は山手線と田園都市線。だから育ちはいい方だと思う。そして毎日多くのお客さんを運んでいるよ。晴れの日も雨の日も、朝のラッシュも夜の帰宅時間も。キライな運転手が乗った時は、わざとガタガタ音を出したり、揺らしてみたりする時もあるんだ、ナイショだけどね。先日、ぼくがホームを出ようとしたら、駆け込む人が見えて、危ないから急いでドアを閉めたんだ。
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そしたらその人、間に合わないのがわかって、手に持ったカバンを閉まろうとするドアに挟み込んだんだよ。仕方なく車掌さんが一度ドアを開けた瞬間、うまいこと車内に滑り込んだ。おかげで発車が少し遅れちゃった。
ぼくはこういうズルい人は許せない。だからその人の車両だけ暖房を消して窓を開けてやったよ。ほかの人もブルブル震えてたけど正義のためだから仕方ないよね。ぼくは育ちがいいんだ。
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よーし、駅に到着!…と思ったら、アレレレ…停止線過ぎちゃったよ。
なにやってるのさ、下手くそだなぁ!
みんなが待ってる位置に扉が来なかったら、僕の評価が下がるでしょっ。
みんなの期待にバッチリ答えなきゃいけないんだから。
僕は育ちがいいからね。
よーし、失敗したお仕置きだっ。
マイクONにして、車掌の独り言車内に流しちゃえ!
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…ブツッ…娘になんて謝ろう。そうだ、美味しいものでも買って帰ろうか…
この車掌さん、娘さんに嫌われちゃったのかな。お客さんにみんなに相談できてよかったね。
…女の子は甘いものに目がないからな、ロールケーキか、アイスか…ブツッ…
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お客さんたち、くすくす笑ってるよ。そりゃそうだよね、車掌さんが社内放送で悩みごとうちあけてるんだもん。
「スイーツはいい案ね」
「いいえ、きちんと話し合わなきゃ」
あらら、女性専用車両では討論会がはじまっちゃった。
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いいや、断然チーズケーキよ!
あら、ショートケーキも良いわよ
チーズケーキはベイクド?レア?
何言ってんのよー、ここはGODIVAよ
それ名案ね!
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「GODIVAー! この車内でGODIVAをお持ちのお客様はおりませんかー! ってね」
「それふつー機内じゃない?」
「変わらないわよ。電車も飛行機も人を乗せるだけの乗り物に過ぎないんだし」
かっちーん。僕がただの乗り物だって? 育ちがいいブルジョワの僕をただの乗り物扱いするなんて許せない!
お客様は神様じゃなくて悪魔なんだ。
怒りが内燃機関に呼応し、僕のスピードがぐんぐん加速する。
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もうすぐ駅だけどこのまま全速力だ!僕のチカラを思い知れ!
そのとき優先席のお婆さんが言った。
「あらもう駅ね。悪天候で少し遅れてたみたいだけど定刻通りに到着、さすがだわ」
いえいえ、それほどじゃないですよ、お婆さん、照れるなあ。僕はスピードを落として静かに駅に停車した。
お婆さんはホームに立つと車掌さんに言った。
「私ならあんこのつまった大福にするわ。ほっぺたが落ちちゃいそうな甘いのよ」
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「え、え? あ、はい。ご乗車ありがとうございます」
車掌さんは訳もわからずお婆さんを見送った。
「俺の悩み聞かれるはずはないんだけどなー。でも大福か。うん、悪くないチョイスかも...」
車掌さんはふふと笑う。
「♪〜」
鼻歌交じりで、再び僕を動かし始めた車掌さんの顔は明るかった。
僕は電車だ。毎日人を運ぶことに飽きるけど、世の中悪いことばかりではないもんだ。
そして今日も僕は走り続ける。
- 完 -
作品情報
TRAIN-TRAIN
#50
- リレー期間
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9ヶ月