私達! 五七五の 合唱部!

「最近さ 五七五で 喋るよう してるんだけど これってどうかな?」 「いや、どうって言われても…。ていうかそれ、五七五七七だから、和歌、じゃない?」 「……」 あれ、なんで怒ってるの? 「…あたしまで しなきゃいけない? この茶番」 「当たり前! 日本人なら やる運命」 そんなわけで、特にルールはないけれど、取り敢えず日本の歌っぽく区切る喋り方が、部長権限で始まることとなった。 (合唱部なのに…)

harapeko64

12年前

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問題は合唱曲のタイトルだ。 なかなか七五調にハマらない。 普通ならここでこの謎の縛りを解くべきだろうが、どう言うわけか私たちは“どう続けていくか”と言う方向へ流れて行った。 「例えばさ 譜面に数字を 振るとかね」 「歌い出し 言えばわかると 思うけど」 こんな具合である。顧問の先生は気づいていないようだった。それどころかこの頃リズム感に磨きがかかってきた気がするとさえ。

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「ねえちょっと、この曲アレンジしてみない?」 「どうやって? 誰がやるのさその作業」 「こんなとき、言い出しっぺがやるべきだ」 という訳で、言い出しっぺの私がうまく五七五にはまるようにリズムと歌詞をアレンジすることになってしまったのだ。 メロディを区切る作業は大変だ。四拍子を変拍子に違和感なくアレンジしなきゃいけない。歌詞との兼ね合いなど苦戦しながら、三日三晩寝ないでデモ音源をどうにか作成した。

12年前

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陽だまりのできた音楽室で部員みんなの注目の中、私は再生ボタンを押した。前奏を一息で越えて、歌。もちろん私の声。 『古時計  ともに生きたさ  おじいさん  生まれた朝から  百年ずっと  チクタクと  おじいさんとさ  チクタクと  もう動かない  大きな時計…』 CDの回転に心臓が絡め絞められる位緊張したけど、みんなの笑いと拍手喝采にほっとした。 「和の心 胸に響くよ チクタクと」

Pachakasha

12年前

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「ではこれをやっと皆で歌うのね」 「歌おうよ声を揃えて肩組んで」 「肩までを組む必要はないだろう」 「文字数の為にちょっとつけただけ」 「おかしいぜ不思議なことをいう奴だ」 「笑うなよ私はルールにのっただけ」 皆の心は一つになっていた。気軽なお喋りをすることもできていた。音を合わせることで生まれた一体感だった。その時、 「小さい"つ"その時皆どうしてる? ハテナもさ七五に入れていいのかな?」

aoto

12年前

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「ハテナはさ、音じゃないから入れないよ」 「小さい“つ”、これは入れてもいいでしょう?」 「文中の小さい“つ”ならいいけれど、文末の“つ”はどうなんだろう」 心を一つにして歌おうとしていた矢先に、どうでもいい議論。私が苦労してアレンジした曲は置いてけぼりだ。 「もういいよ!歌わないならもう帰る!」 思わず声を荒げたところで顧問の先生が現れた。 「みんな、合唱コンクールの日程が決まったぞ」

hayayacco

10年前

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「どうしよう、あと一ヶ月を切ってるよ」 部室は大騒ぎになった。私がデモテープに時間をかけすぎて、時間も残り少なくなっていたのだ。リズミカルなひそひそ話が飛び交う中、副部長が大きく手を叩いた。 「落ち着いて! もう喋る暇も惜しいわよ」 「はやく並んで、練習するよ」 合いの手を入れた友人がちらりとこちらを見た。ああそうだ、部長の私がしっかりしなきゃ。 「でもそれ俳句じゃなくて和歌だよ」 あ、私もだ。

ゆりかご

10年前

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合唱コンクールまで後二五日。 私たちはみんなの疑問を解決する方法として和歌、俳句について勉強する期間を三日間設けることにした。けどそれもみんなの疑問をますます大きくさせるだけに終わってしまった。 「季語はさぁ 入れなくてもさ 良いのかな」 「だいじょぶ これは俳句で ないからさ」 「だめでしょ ルールは守る 鉄則です」 「じゃあさぁ 和歌のルールは どうするの」

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私達は皆、頭を抱えてしまった。このままだとコンクールが…。 「言葉はね 心を映す これ大事」 「!」 皆が声の方を振り向くと、そこには顧問の先生がいた。 「七五調 サザンも使う 心の声」 そっか…俳句や和歌のルールが大事なんじゃない。大事なのは何を伝えるかだ! 「よしみんな! 心を声に 出していこう!」 「「おう!」」 そして私達は皆、ルール違反の雄叫びを上げた。 目指せ!合唱コンクール!

hyper

9年前

- 完 -